2021-09-07

読んだ本,「どこか安心できる場所で 新しいイタリアの文学」(パエロ・コニェッティ他)


 「どこか安心できる場所で 新しいイタリアの文学」(パエロ・コニェッティ他)(国書刊行会 2019)を読了。「ポルトガル短編小説傑作選」と同じコラムで小野正嗣氏が紹介していたもの。本書の序文も氏が執筆している。

 2000年以降に発表された13人の作家の短編15作が収録されている。旅をするように,旅先で何かに出会うように,頁をめくり,琴線にふれるいくつかの短編に出会った。パオロ・コニェッティ「雨の季節」,ヴァレリア・パッレッラ「捨て子」,リサ・ギンズブルグ「隠された光」,そしてイジャーバ・シェーゴ「わたしは誰?」などなど。

 「わたしは誰?」は移民先のイタリアの社会・文化にも,出自であるソマリアの社会・文化にもアイデンティティを見いだせないファトゥが主人公。イタリア人の恋人ヴァレリオと出会うシャガールの展覧会の場面が印象的だ。「とてもありふれたシーンに見えた」(p.105)甘いシャガールの絵を,作家はファトゥに「ところが,シャガールの絵は,実物を見れば,神の魔法ではないかとさえ思われ」と語らせる。(p.106)

 そして,ファトゥが「実物のわたし」に向き合うラストは,読者が「神の魔法」を感じる番と言えるのではないだろうか。「軽やかな気分だった。彼女はもうエキゾチックな女でもなければ,不信心な女でもなく,何者でもなかった。彼女は彼女,自分の言葉と本能だけ,それだけの存在だった。」(p.126)

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