2021-09-17

読んだ本,「地上に星座をつくる」(石川直樹)

 写真家の石川直樹の著書「地上に星座をつくる」(新潮社 2020)を読了。すでにここまででいくつかのはてなマークが頭に浮かぶ。石川直樹とは写真家なのか冒険家なのか。この本はほとんどが文章でなぜ写真が少ない(ほとんどない)のか。

 彼は写真家であり冒険家であり,言葉の人でもあるというのが差し当たりの正解なのかもしれない。しかし,ユリイカの石川直樹特集号(2011年)のページを繰っていると,こんな一節に出会った。

 「彼自身の足でたどっている地理的・歴史的な旅のテリトリーがあまりに広大過ぎ」る。(倉石信乃「時と形」同著p.103) まったく同感,と思いながら以下のように続く彼の写真の本質を指摘する箇所にはっとする。

 「この写真家が個々の旅において必ず「死」の接線に触れてから帰還しており,その誘引力に対する複合的な感情を,写真イメージのマージンにいわば『稀薄な剰余』として抱え込んでいると思えることだ」(同上)

 「地上に星座をつくる」に所収の文章は2012年5月から2019年12月にかけて「新潮」で連載されていたものだから,ちょうど2011年のユリイカから現在までの彼の足跡をたどることができる。

 まさに死と隣り合わせのヒマラヤ登山もあれば,「体調が悪い」という一文で始まるインド滞在記もある。しかしどの旅の記録も淡々と,そして生き生きと語られて,それはまさに彼の写真そのものだ。「死」は「生」のすぐ側にあるのだけれども,それだからこそ「生」は輝いているのだと感じさせてくれる。

 鬱々と過ごしてしまいがちだが,国内にこんなに行ってみたい場所があることに驚いて,夢をふくらませている。まずは10月に奥能登芸術祭にでかけたい。石川直樹の写真展示もあるらしい!

 「そうする必要のない場所でプチ冒険をして生還したことに胸をなでおろしている自分がいて,『おれはいったい何をしているんだ…』と思わずにはいられなかった。ここはヒマラヤでもなければ,絶海の孤島でもない。奥能登で最も有名な観光地の砂浜である。(略)『うーむ,これでよかったのか自分』と思ったのだが,とりあえず二人とも無事で何より。/たまには,こんな冒険も,ある。」(p.209)

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