2025-08-21

読んだ本,「十七八より」(乗代雄介)

 乗代雄介「十七八より」(講談社 2015)読了。既読だと思い込んでいたが,未読だった。もしくはすっかり忘れていた。「二十四五」の景子とゆき江の関係がこれですっきりした。いや,何もすっきりしていない。冒頭,語り手の少女(=十七八の景子)は,叔母が臨終を迎えたときに自分ひとりに「遺言」を残したことを書く。しかしこう続けるのだ。「叔母の遺言について,ここへ書くには及ぶまい。」

 こうして読者は叔母の遺言とは何だったのか,この小説を通して何を読むのか,何を摑めばよいのか,最後まで忍耐強く読み進めても「謎を解くには及ぶまい」とひらりと煙にまかれた感触しか残らない。

 それでも,世阿弥論を説く古典教師とのやり取りや,老女の抗議が延々と続く病院の場面などは読後の余韻として心の深いところに残る。そんな断片としての古典教師の言葉から。

 「純粋に死者と語ろうとする時,私はこの世を離れる努力を強いられているような気がしますが,もう一つ,そんな気分になる時があります。本を読む時です。文字という自然を離れた意味だけができることです。この無機質な記号の海から浮き出す雲に翻弄され,夢中になり,苦悶している時こそ,質的に,死者と語らうことに比肩すべき時間なのではないかと考えるのです。」(p.59)

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