2013-03-17

読んだ本,「キャパ その青春/その戦い/その死」(リチャード・ウィーラン)

 横浜美術館でロバート・キャパの展覧会を見てから,アンドレ・フリードマンその人の人生がとても気になって,文春文庫の「キャパ その青春」「キャパ その戦い」「キャパ その死」(リチャード・ウィーラン著;沢木耕太郎訳)を読んでみました。さすがに文庫本3冊分,ずっと集中力を保つのは難しかったけれど,最終章に至るまでの緊迫した展開に惹きこまれて,読み終えてちょっとした脱力状態。


 沢木耕太郎氏の訳文はとてもテンポよく読みやすく,戦場写真家としてのキャパの「光と影」がとてもドラマチックに伝わってきます。スペイン戦争取材時の自分が撮った難民についてのルポルタージュに添えたキャパの言葉を引用した部分「バルセロナの難民センターの前で撮った,袋の山の上にぐったりと座っている,黒い瞳の美しい少女を描写したあとで,彼は書いている。《いつだって,ただ傍観し,人の痛苦を記録することしかできないことは辛いことだった。》」(単行本「キャパ その青春」 p.282より引用)は,展覧会場で見た少女の瞳を思い出し,胸が痛くなります。

 ところで,この文庫版は,文藝春秋社刊の単行本「キャパ その青春」と「キャパ その死」(1988年)の2冊を3分冊にして2004年に刊行されたもの。知人に借りた文庫本3冊を読み終えてから,手元に置いておきたくなって調べたところ重刷されていないようで,「その死」は某マーケット・プレイスでもかなり高額になっています。結局,単行本を某古書ネットで2冊購入。

 沢木耕太郎氏による「原注,訳注,雑記」も,感傷に流れそうな読後感をぐいっと現実に引き戻してくれて,とてもおもしろい。キャパの人生に関する沢木氏の思い入れは今,新刊の「キャパの十字架」(文藝春秋)に結実しているようです。あまりに完成度の高いテレビのドキュメンタリーを見て,これ以上活字で確認する内容はないのでは,と迷っていたのですが,やはり読んでおこうと思い直したところ。

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