ルーベンスといえば,筋骨隆々というか,言ってしまえばむちむちの肉体が画面に躍動する様子から「肉弾戦」という言葉を連想してしまう。そしてそれが入口から出口までずらっと並んでいるわけです。「冷静」とか「理性的」という言葉はルネサンス美術に用意されたものであり,ここにあるのはまさに「バロックの神髄」なのだと再認識する。
面白かったのが展覧会構成の第5章「専門画家たちとの共同制作」。日本初公開という「熊狩り」は動物画の専門画家スネイデルスとの競作です。迫力×迫力,みたいな大画面に思わず口がぽかんと開く。第3章「ルーベンスと版画制作」にはエングレーヴィングの「ライオン狩り」も。これはどんな本画なのだろうと調べてみたら,昨年11月に訪れたミュンヘンのアルテ・ピナコテークが所蔵している作品でした。
しまった。確かにルーベンスの部屋(2階の中央第Ⅶ室。いわば美術館のハイライト的な位置にあります)はぐるっと廻ったけれど,まったくノーマークで記憶の片隅にもありません。「アルテ・ピナコテーク」(エーリッヒ・シュタイングレーバー著,みすず書房 美術館シリーズ4,1990)のフランドル絵画のページをあわてて繰ると,「ライオン狩り」の図版はありませんが,「カバとワニ狩り」の図版に目を奪われる(左ページ上の図版。カバとワニを狩る!)。いつの日か再訪できたら,ちゃんと見てこよう。
展覧会第2章「ルーベンスとアントワープの工房」によると,彼は巨大な工房を組織して,多くの助手やその卵を抱えて作品を製作,その数は2000~3000点にも及ぶということ。一人の偉大な画家の生涯とその膨大な製作の全容を駆け足で体感した展覧会でした。
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