損保ジャパン東郷青児美術館で「オディロン・ルドン 夢の起源」展を見てきました。第1部「幻想のふるさとボルドー 夢と自然の発見」に展示されているアルマン・クラヴォーの植物学素描にまず圧倒されました。ルドンに植物学の手ほどきをしたという人物で,版画家ブレスダンとともに彼の画家人生に大きな影響を与えたことが,その裸子植物や藻類の標本画からも窺えます。
よく古書市などで販売されている手彩色の版画の緻密で繊細な植物画とは少し趣が違って,生々しいというか,ルドンが描く不思議な生き物たちの生態に通じるものを感じます。
さて,第2部「黒の画家 怪物たちの誕生」ではルドンのおなじみ(?)の不思議な黒の世界を堪能しました。チラシにもなっている異形の生き物は不敵な笑みをこちらに向けています。うへへ,という怪しい笑い声が聞こえてきそう。
石版画集「夢想」は「わが友アルマン・クラヴォーの思い出のために」という副題がついていて,自死したというこの植物学者に捧げられています。短い詩行の添えられた幻想世界は,ルドンの見た夢なのか,それともルドンが実際住んでいた世界なのか。
第3部「色彩のファンタジー」の世界もまた,後年のルドンが住んでいた世界に他ならないのでしょう。岐阜県美術館が所蔵する「眼を閉じて」の前で足を止めます。2006年に東京オペラシティアートギャラリーで開催された「武満徹 Visions in Time」展で魅了された1枚。彼の「閉じた眼」の源泉となったルドンの「眼を閉じて」はたくさんのヴァージョンがあるのですが,私にはこの夢幻の世界を漂うような色彩にあふれた1枚が,武満徹の幻想的な曲想と分かち難く結びつきます。
帰宅して久しぶりに「閉じた眼」や「ピアノ・ディスタンス」,「遮られない休息」などを収めた武満徹のマイ・ベストCDを探し出して,ゆっくりと耳を傾けることに。実は今,自分の力ではどうにもならない心配事を抱えているのだけれど,しばし現実世界から逃避して時間を過ごす。
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