2019-09-01

2019年9月,東京世田谷,「入門 墨の美術」展(静嘉堂文庫美術館)

  静嘉堂文庫美術館で始まった「入門 墨の美術-古写経・古筆・水墨画-」展(10月14日まで)を見てきました。暑い夏の終わりに,静謐かつ清廉な展覧会を楽しんで,まさに眼福。楽しかった! (展示室内の写真は美術館より特別に撮影の許可を頂いたものです。)
 
 4月に東洋陶磁美術館で「文房四宝」展を見たばかりでもあり,初心に立ち返って「墨の美術」を入門から勉強できる機会はとっても嬉しい。今回は,「墨を主体的に用いた,わが国の古代中世の書画を展観」(図録p.3「あいさつ」より)する展覧会です。古美術の展覧会で,「ん?  これは中国,それとも日本?」という疑問を初めから感じないで済む,というのは思ったよりストレスフリーな経験でした。
 
 唯一の例外の元時代の水墨画「寒山図」と,宋代の墨がプロローグに展示されています。展覧会のキャラクター「かんざんくん」のナイスな脱力ぶりが面白い! 
  
  展示はタイトルが示す「古写経・古筆・水墨画」の三章で構成されています。奈良時代の写経の楷書体の書風は,謹直な職人たちの祈りが伝わってくるよう。「祈りの墨」の厳しさに思わず背筋が伸びます。仏教の修行に類するものだったという指摘はむべなるかな。この秋,ぜひ禅寺へ写経や座禅に出かけようと決心!
 
 そして平安時代の古筆の章では「雅なる墨」の美しさにただただ圧倒されます。伸びやかで流麗な書体は書き手の個性を表す,という指摘になるほど。工夫をこらした料紙や書かれた詩歌は,贈られた人への思いと共に「書く人」そのものを表すわけですね。
  そして展示は鎌倉~室町の水墨画の章へ。「墨に五彩あり」を体現するかんざんくんの笑顔にこちらも肩の力が抜けます。「聴松軒図」には人物は描かれていないけれど,禅僧の漢詩のやり取りによって,画面には人間味が溢れている,という指摘に思わず驚きました。そして,そうか,詩画図はそういう見方をすればよいのか!と目からウロコです。
 
 古美術の展覧会にでかけると,実物と解説を交互に読んで,ああ疲れた。となることが多かったのですが,今回は日本の「墨の美術」を,  テーマと時代で分かりやすく見せてくれる「入門編」ということで,いやあ,楽しかった! こういう古美術の見方・見せ方があるんだ。
 
 参考出品の経筒や元の飛青磁の花入れなども楽しい。「墨の美術」は続編はあるのかしら,中国編かな,それとも入門の次だから中級編かな,などと想像しながら美術館を後にしました。
 ところで,この展覧会のポスター類や図録がとても印象的です。明朝体の書体が古風で,展覧会にぴったり。(フォントの名前はわからない。。)図録をしばらく書棚に面出しで並べて展覧会の余韻を楽しもう。

0 件のコメント: