古書ほうろうの店頭で購入した「荒地の恋」を読了(文藝春秋 2007)。「荒地」の詩人たちの複雑な人間関係は興味はあるものの,あまり覗き見趣味的な関心を持つのもいかがなものかとちょっと敬遠していた小説。手に取ったのも何かのきっかけだろうと読んでみた。
田村隆一も北村太郎も「活字の中の詩人」だったのだが,読み終えてまるで「ドラマの中の俳優」みたいに思えてしまった。実際,数年前にドラマ化もされていたらしい。フィクションだと思えば面白いストーリーだが,これは実話なのだ。私という人間の生きる世界の価値観倫理観とあまりに一致点が見つからないので,これはフィクションと割り切って読まないと脳内が拒否反応を示す。
ねじめ正一の文章(私は彼の詩をほとんど読んことがない)が読みやすいのが救い。なんとか最後まで読み通し,北村太郎の詩作(各章のタイトルになっている。とりわけ「港の人」を。)を読み返したいという思いだけが残った。東近美で深瀬昌久の「鴉」を見た直後だったので,こんな場面が印象に残る。
「屋上のカラスが騒いだ。方向転換したカラスはふわりと上昇して彼らの横に止まった。信号が赤になり,人が溜まり出した。北村は一度離れた電柱に背中を預けた。ひどく疲れて,このままここにうずくまってしまいたいほどだった。目を閉じ,乱れた息をととのえてからふたたび目を開けると,カラスたちは消えていた。」(p.265)
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