2021-11-12

読んだ本,「やし酒飲み」(エイモス・チュツオーラ)

 「やし酒飲み」(エイモス・チュツオーラ 土屋哲訳 岩波文庫 2012)を読了。池澤夏樹編集の世界文学全集に所収されているので,以前から気になっていたアフリカ文学。

 「死んだ自分専属のやし酒造りの名人を呼び戻すため「死者の町」へと旅に出る」男の物語である。(表紙要約文)

 読み始めてすぐに,「である」と「ですます」が混合した不思議な文体に驚かされる。原文は英語とあるから,オリジナルの文章にそういう文法的な特色があって,それを日本語に置き換えるときに訳者が工夫した,ということなのだろう。この点,訳者のあとがきだけでなく多和田葉子の解説が付されていて,読書の大いなる助けとなってくれた。

 この不思議な小説は神話的世界であって,常識は通用しない,みたいな書評が多いようだ。たしかに,死者の町へと向かう途中で妻を娶り,「ジュジュ」を使ってあらゆる恐怖を乗り越えてついにやし酒造りを探し出す冒険譚には生と死の境界など存在しない。読者もまたその境界を行ったり来たりしながら,死者の町へ行ってそして帰ってくる。この本の頁をめくっている間,私はこの世に存在していなかったのではないだろうか。

 「死者の町」でやし酒造りと話すくだり。「わたしの町で死んでから彼は,死んだばかりのものはすぐに直接ここ(「死者の町」)に来れないので,まず死にたての者なら誰でも最初に行かなくてはならない,ある場所へ行った。そしてそこへ着いて2年間,完全な死者になるための訓練をうけ,その資格をとってからはじめてこの「死者の町」に来て,死者と一緒に住むようになったことを話してくれた。」(p.134)

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