島田雅彦の新刊です。先月7月29日には新宿紀伊国屋ホールで講演会もありました。「作家デビュー30周年&『ニッチを探して』刊行記念」と銘打ったその会は,スライドショーあり,オペラ独唱あり(!),サイン本購入者には「ニッチ犬ミニタオル」のプレゼントあり,サービスたっぷりの「雅彦祭り」。会場は若い女性が多いかと思いきや,男性読者の姿も多く,会場に充満する奇妙な連帯感に包まれて楽しい時間を過ごしました。
大手銀行に勤務する52歳の藤原道長が,背任の容疑をかけられて妻と娘を残して失踪し,生き延びるためのニッチ(「隙間」という意味と「生息域」という二つの意味がある)を探すサバイバル小説。講演ではジョイスの「ユリシーズ」とホメロスの「オデュッセウス」への言及や,東京という都市の「今」も未来に書き残しておきたかった,と語っていたのが印象的でした。
下町の酒場や公園の炊き出し,段ボールハウスなど実体験に基づくサバイバルは,思わず真似をしたくなる人が続出するのではないか(少なくとも雅彦ファンは),と思えるような痛快さです。紀伊国屋ホールの講演会チラシには「会社を辞めたい人,すべてを捨てて失踪したい人,居場所を探している人,必読!」と書いてあります。必読,と言われてあっという間に読み終えた私はさあ,どこへ向かおうか。
「もうこれ以上の発展も,進化も,成長もないと見切ったら,あとは堕ちてゆくだけである。問題はその堕ち方だ。努力空しく,騙され,出し抜かれ,敗北して,堕ちてゆくくらいなら,自らすすんで,緩やかに,フェードアウトしてゆく方が百倍ましである。」(p.58より)
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