2013-08-03

写真集,「Circulation」(中平卓馬)

 金村修氏がトークで言及した中平卓馬のCirculationは,とても大切にしている写真集です。1971年にパリ青年ビエンナーレに参加したときの《Circulation: Date, Place, Events》が金村修の手によるプリントで1冊にまとめられ,2012年にオシリスから出版されたもの。
  当時,中平卓馬はパリの街で無差別に撮影した写真をその日のうちに現像・展示するという手法を選択。日々増殖する写真は壁から床へと張り巡らされていきますが,最終日を待たずに主催者と決裂,写真家は写真を剥がして帰国してしまいます。

 その後の写真家の人生も含め,伝説的なエピソードに引きずられて見てしまいがちなのだけれど,ページをめくるごとに目の前に現れるパリの街,車,テレビの画面,印刷物の表面,何もかもが均質な現実世界であり,強烈な磁場のような魅力をたたえていて,もはやこれらの写真は私にとって好きとかお気に入りという言葉の範疇を軽々と超越してしまう。

 2003年に横浜美術館で開催された「中平卓馬 原点復帰-横浜」展の図録に掲載されている倉石信乃氏による解説文には,この作品について次のように言及している部分があります。

 「中平によれば,毎日200枚,合計約1500枚の写真が展示されたという。中平は本作について,『一枚一枚の写真はぼくの内的イメージの表出ではない。それは現実を指示する記号なのだ。(略)』と記している。こうして,眼に映る次元の異なる事物/情報を,すべて二次元の平面に置き換え並列するという,無差別的・等価値的な写真原理を鮮やかに具現化して見せた。あらゆる価値のヒエラルキーを等価に均すこの作品では,現代社会を規定する写真(映像)の無秩序な氾濫という『陥穽』を逆用して,写真による即物的・アナーキズム的な『対社会的反撃』も含意される」(p.134)

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