渋谷のイメージフォーラムで上映中の「世界一美しい本を作る男:シュタイデルとの旅」(How to Make a Book with Steidl, 2010,ドイツ)を見てきました。「シュタイデル」社は写真集や美術書などを作るドイツの小さな出版社。経営者のゲルハルト・シュタイデルの本づくりにかける情熱を「旅」という視点で追いかけたドキュメンタリー映画です。
「ここは会社というよりも研究所なんだ」と語るシュタイデル氏はたしかに白衣姿がよく似合う。彼はクライアントであるアーティストたちとの打ち合わせのために,ニューヨーク,ロサンゼルス,パリ,カタール…と世界中を旅します。「直接会って打ち合わせれば,2, 3か月かかる仕事が4日で終わる」と言い,紙の種類,作品の選定,微妙な色の調整などなど,「作家の分身」を具現化するために情熱を注ぎます。
ニューヨークとノバスコシアで打ち合わせをするロバート・フランクは幾分老いた印象を受けますが,シュタイデル氏から「もう1枚写真を選んで」と言われて膨大なポラロイドを繰るシーンには感動すら覚えます。写真家が1枚の写真を選ぶとき,彼の手の中には全世界が存在する。
筆で自分の名前と本のタイトル(「ブリキの太鼓」!)を書くギュンター・グラス,気のよいおじさん,といった感じのロバート・アダムス。ジョエル・スタンフェルドの「iDubai」(アイ・ドバイ)という写真集が出来上がるまでの工程は全編を通して描かれていて,とてもスリリング。
シュタイデル氏の仕事にかける情熱,真剣なまなざし,プロとしての自信とスタッフへの信頼。それらは圧倒的であり,日々惰性で生きている自分とは別の地平に生きる人とも思えるのですが,むしろ羨望の感覚というか,「人生はなんて美しい!」と思えてきて,とても気持ちのよい映画でした。いやあ,面白かった。イメージフォーラムを出て思わず空を見上げる。246の向こう側のビルの屋上。
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