池澤夏樹の「双頭の船」(新潮社)を読む。「鎮魂と再生の祈り」という出版社の惹句を目にすると,しんどいな,と正直なところ,思う。「3.11」からもう2年半,ではなく,たったの2年半しか経っていない。辛いのだ。「あまちゃん」も面白いけれど,ふと辛くなる。
あの日からの「状況」と「気持ち」に「言葉」を与えようと作家が紡いだ物語は寓意に満ちていて,巨大化していく船や,人間がオオカミに掟を教える場面など,ほとんど神話的と思える。いつしか物語の世界にぐいぐい引き込まれていることに気付く。
盆踊りの夜,フォルクローレのグループが「泣きながら Llorando se Fue」を演奏する場面は,「現実と向き合う」ことの重さを教えてくれて,いつまでも心に残る。
舳先(へさき)と艫(とも)の区別のない舟は,あの世とこの世を繋ぎ,海へ向かい陸へ向かい,過去と折り合いをつけて,未来へと向かう。少しの勇気を出して,今読んでよかった,とそんな風に思う。
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