「私とは何か 「個人」から「分人」へ」(講談社現代新書)を読了。これは著者の平野啓一郎が最近の小説で提唱している「分人」という考えをわかりやすくまとめたもの。
「分人(dividual)」という新しい単位は,人間を「分けられる」存在と見なすのものであり,人間は対人関係ごとのいくつかの分人によって構成されている,というのが著者の考えです。(これで支離滅裂な嗜好の私の「個性」も説明がつく?)「本当の自分」というのは幻想に過ぎない,という点が強調されていて,なるほどと深く共感を覚えます。
この考えは2009年刊の近未来小説「ドーン」の作中で「分人主義」という語で語られているものです。小説の読者としては新書の語り口はなんとなく冗長に感じてしまいました。あとがきによれば,口述筆記にあとから全面的に手を加えて完成させたということなので,厳密に言うと著者の「文体」とはちょっと異質だからかもしれません。
さて過日,東大UTCPで平野啓一郎氏を迎えて「分人」と現代文学についてのシンポジウムがあり,聴講してきました。まことにハイブロウな(!)内容で,半分くらいしか理解できなかった(!!)のですが,質疑応答も含めて参照図書として是非読みたい本。「鏡子の家」(三島由紀夫),「アイデンティティと暴力」(アマルティア・セン,勁草書房)。
カフカの影響を受けた「最後の変身」(短編集「滴り落ちる時計たちの波紋」2004 所収)への言及もありました。この短編集は横組みの「最後の変身」や,前から読んでも後ろから読んでも同じ文章の「閉じ込められた少年」など,とても面白く読んだ1冊です。
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