2017-10-20

読んだ本,「魔法の庭」(イタロ・カルヴィーノ)

  秋を通りこしてやってきた冬の寒さにすっかり気分も滅入る。梅雨時に雨が続くのは嫌いではないが,天高い時期に冷たい雨が続くのは反則だ。休みの日も出歩くよりは家で読書,という気分になる。

 書棚を整理していると,我ながら積読の多さに愕然とする。本を買うのは未来を買う行為とは言え,未来の限りをそろそろ自覚するこの頃,どうにかしなくちゃという気になっている。それと同時に,あれ,こんな面白そうな本を買ったのだったかという小さな悦びも。「魔法の庭」(イタロ・カルヴィーノ 和田忠彦訳 ちくま文庫 2007)を読了。

 カルヴィーノの短編集と言えば,「むずかしい愛」(和田忠彦訳 岩波文庫 1995)をまず思い出す。たしか荒川洋治が書評で絶賛していた,女が水中で泳いでいる美しい場面の描写はまるで映画を見ているようだった。

 この「魔法の庭」に収められている11の短編はどれも大人の社会の中の「異なる存在」をどこかユーモラスな視点で描くものだが,やはり映像が目に浮かぶような感覚を堪能した。

 「…そして水際には蟹がうじゃうじゃと,ありとあらゆる形や大きさの蟹が何千匹も,その折れ曲がった輻射状の四肢をつかってぐるぐる動きまわりながら,鋏をちらつかせたり,無表情な鈍い目を突き出すようにしていた。その蟹の平らな腹に寄せる海の水は,音もなく鉄の壁の四方を洗っていた。この船倉中がもそもそ蠢く蟹でいっぱいなのかもしれず,だとしたらある日,この船は蟹たちの四肢に乗って動きだし,海の中を歩きはじめるかもしれない」(p.12「蟹だらけの船」より引用)

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