2022-12-31
読んだ本,「アイルランド紀行」(栩木伸明)・「アイルランド絵画の100年」展図録
2022-12-04
2022年11月,東京上野毛他,「西行」展他
いくつか気になる展覧会があって,久しぶりにぐるっとパスを購入しました。とてもお得なのだけれど,生来の貧乏性ゆえ,元を取らなきゃと必死(?)になってしまいます。じっくり見たり考えたりというプロセスがおろそかになってしまっているのですが、とりあえず忘備録として。
まずは五島美術館で「西行 語り継がれる漂泊の歌詠み」展(12月4日まで)。古筆を中心に絵画・書物・工芸などなど。東博や京博からも国宝がずらりと並んでいて,西行という歌人が語りかけてきたものを辿ることができる展覧会です。
私にとって西行は辻邦生の「西行花伝」に描かれた世界がすべて。自筆の手紙など見ていると,辻邦生の作り上げた小説世界と現実が交錯してきて,夢中で読んだ日々を思い起こさせる体験となりました。
2022-11-23
2022年11月,埼玉大宮,大宮盆栽美術館・埼玉県立歴史と民俗の博物館
ロビーフロアはインテリアブランドのTIME&STYLEと加藤蔓青園のコラボでこんなおしゃれな展示。須田悦弘の展示には圧倒されました。小さな木彫の放つ力が盆栽の魅力を倍増している感じ。大和田良の写真とのコラボもよかったなあ。盆栽家の山田香織の展示は期待度が大きすぎたのか,ちょっと盛り込みすぎな感じがして残念だったかも。
埼玉県立歴史と民俗の博物館は初めて訪れました。常設展示の規模が大きくてびっくり。第6室では板碑の展示をじっくり拝見。本尊を表す梵字(種子)の解説図がありがたい。キリーク,サ,サク,バン,ア…と声に出してみました。呪文のような響きが神秘的。
2022年11月,埼玉行田・北浦和,さきたま史跡の博物館,「桃源郷通行許可証」(埼玉県立近代美術館)
ある日の職場でのこと。何がきっかけでそういう話題になったのか覚えてないのだけれど,忍城はいいよ,併設の郷土博物館もとてもいいよ,行田にはおいしい店もあるよ,と聞いて,よし!と行田へ向かいました。秋晴れの休日。
乗換案内やバスの時刻表を駆使して順調にまずは忍城址へ。姫路城みたいに〇、△、□の狭間があるんだ。紅葉も美しく,さて博物館へと向かったら、なんと!休館日でした。あんなにアクセスを確認したのに,休館日を確認し忘れたという。。
がっくりきたけど,ならば古墳公園へ向かおうじゃないか。時間があれば行きたいと思っていたのでこれは好都合ということにして自転車を借りていざ。で,途中におすすめのレストランに寄ろうとしたらすでに閉店しているらしく,一体私は何をしにきたのか。。
しかし,とにかくもたどり着いた遺跡公園には大感動。さきたま史跡の博物館で稲荷山古墳出土の国宝金錯銘鉄剣の展示に大興奮です。こんな風に表面も裏面もはっきりと金象嵌の文字を見ることができます。この部屋には一括指定された国宝がずらりと並び,足が震えそう。神獣鏡や帯金具のあまりに美しい文様にも時を忘れて見入ります。
古墳公園の中は自転車があって本当によかった,と思うくらい広い。稲荷山古墳に登ったり,将軍山古墳は内部の展示館を見たりテンション上がりっぱなしです。陽が傾いてきて市街へ戻る途中,美しい水城公園でしばし休憩。
この日は大宮に1泊することにしていて,夕刻,閉館の時間までを北浦和の埼玉県立近代美術館で「桃源郷通行許可証」展を見ることに。文谷有佳里×菅木志雄の展示では,この奇妙な一日がそこにある菅作品の木と鉄に収束されていくような不思議な感覚を味わう。稲垣美侑×駒井哲郎もとてもよかった。この展覧会はじっくり時間をかけて見たい。会期中にもう一度出かけるつもりなので,また項を改めて。
読んだ本,「愛と幻想のハノイ」(ズオン・トゥー・フォン)
1980年代のベトナムが舞台。信念を曲げた記事を書いたジャーナリストの夫を罵り,運命的に出会った音楽家への愛に目覚めた文学教師のリンが生きていく姿を描く。普遍的な物語ではあるのだろうけれど,国家権力と結びつくジャーナリズムや芸術家の葛藤など,ベトナムという国の社会的歴史的背景の一端を垣間見れて読後感はずっしり重い。
この作家は日本での出版当時,執筆停止の状態だったという(訳者あとがきより)。雨のハノイに滞在した短い旅の日々を思い出す。美味しい食事と美しい手仕事の国という表面しか見ていなかった。命がけで文学に向き合う人の存在も知らずに。またあのホアンキエム湖を訪れてみたい。
勤務先の校長や生徒たちの心配する声をリンは聞く。「〈他人からの同情ほどいやなものはないわ、自尊心のある人間にとって。物乞いにほどこされるスープみたいなものだもの〉そうした思いに,暗い灼熱の地獄へたたき落とされた。同情は傷口を広げた。まだ血を流している,癒えることのない傷を。なぜなら人間のやさしさというのは,もの言わぬ動物か愛くるしい子どものようなもので,それにはリンも背を向けられなかったから。」(p.181)
2022-11-20
2022年11月,東京池袋,「ヒンドゥーの神々の物語」展・これから読む本,「インドの神々」
2022年11月,東京初台,「川内倫子 M/E」展・「連作版画の魅力」展
心惹かれるものが多いなか,「4%」連作の中のクラゲのモチーフに思わず見入ります。私たちの生命とこの不思議な生命の繋がり。こうして1枚の確かなイメージを紡ぎ出す写真家の力に羨望を抱きます。水族館で無邪気にパシャパシャとシャッターを押したイメージとはまったく異質のものだなあ,と。
同時開催の寺田コレクション展「連作版画の魅力」展も心躍る内容の展覧会。李禹煥の版画をこんなにたくさん見れるとは! リトグラフ,ドライポイント,シルクスクリーンなどなど技法もいろいろ。「点より 線より」(8点組)は見る側にとって,油彩の大作とはまた違う親密さがあって時が経つのを忘れて見入ってしまう。
他に中西夏之,加納光於,郭仁植などなど見ごたえたっぷり。ところで郭仁植といえば,このギャラリーで開催された単色画の展覧会で魅了された鄭相和の版画を最近手に入れました!この顛末はまた項を改めて。2022-11-13
読んだ本,「李王家の縁談」(林真理子)
「李王家の縁談」(林真理子 文藝春秋 2021)読了。初めてのソウル旅行(2015)で宗廟を訪れたとき,李朝最後の王世子(皇太子)の李垠とその妻の方子の霊も祀られていると知り,日本の皇族から嫁いだというその女性の人生に興味を持ったのだった。
帰国してからちょっと調べただけですっかり忘れていたが,昨年この小説の出版を知って,やり残した宿題を思い出した気分に。今頃になってようやく頁を開いた。読み始めるとその日のうちに読了。林真理子氏の文章はとても読みやすい。
方子の母の梨本宮伊都子の日記が元になっている。明治・大正・昭和の皇族の姿がドラマか映画を見ているようだ。政治とは切り離せない縁組の行方や哀しい事件に同情を覚えそうになるが,およそ下々の世界からは想像もできないやんごとなき世界の出来事。
読み終えてふと考える。林真理子という小説家が構成した世界と,私という読者の生きる世界を繋いだのは,宗廟でチマチョゴリ姿がかわいいガイドさんの言葉だ。ここには最後の王世子様と奥様の方子様の霊もお祀りしているのです。フィクションと現実がメビウスの輪のようにぐるぐると回る。
小説では韓国に帰国してからの王世子夫妻と息子の人生は描かれない。巻末には多数の参考文献が記載されているので,次は歴史書で読んでみようと思う。文庫本も多い。「梨本宮伊都子妃の日記」(小田部雄次),「日韓皇室秘話ー李方子妃」(渡辺みどり)などが入手も容易そうだ。
2022-11-08
読んだ本,「夜のみだらな鳥」(ホセ・ドノソ)
2022-11-03
2022年10月,千葉佐倉,「加耶」展・読み返した本,「パレオマニア」(池澤夏樹)
2022-11-01
2022年10月,千葉佐倉,「マン・レイのオブジェ」,「コレクションHighlight ジョゼフ・コーネル」
2022-10-29
2022年10月,東京新宿・上野毛ほか,「柳宗悦の心と眼」「禅宗の嵐」ほか
9月と10月にでかけた展覧会の忘備録。楽しかった時間はちゃんと記録に残しておかないと。まずは9月から10月初の2週間だけ駐日韓国大使館韓国文化院ギャラリーMIで開催されていた「柳宗悦の心と眼」展。
肉筆原稿,スケッチブック,ノートなどの展示を通して「朝鮮とその藝術」刊行100周年を記念するというもの。資料に関連する筆筒や染付壺なども出品されていましたが,やはり柳宗悦の思考をたどる直筆資料には圧倒されました。立派なブックレットもいただけて大充実の展覧会。初めてでかけた韓国文化院は楽しかった!また韓国に行きたいなあ。渋谷の実践女子大学香雪記念資料館では「知られざる佐藤春夫の軌跡」展を。佐藤春夫の名前は,自分の若い日を思い出させます。というのは,理系だった父の書棚に佐藤春夫の詩集が1冊差し込まれていて(それが「田園の憂鬱」だったような記憶があるのだけれど,今回の展示で「殉情詩集」の装幀を見て,これだったかもしれない),不思議な違和感とともに眺めていたのです。父はこの詩人の何に惹かれていたのだろう。
読んだ本,「チベットわが祖国」(ダライ・ラマ)「高原好日」(加藤周一)
身辺事情(?)にいろいろあって,ほとんど更新をしていなかった。読書はほとんど進まなかったが,記録に残さないと何もかも(読んだことも)忘れてしまうので,簡単な忘備録として。
「チベットわが祖国」(ダライ・ラマ著 木村肥佐生訳 中公文庫 1998)はダライ・ラマの自叙伝。転生者探しからダライ・ラマとして生きることになる序盤から,中国の侵略とインド巡礼の旅を経てラサを脱出し,インドへ亡命するその激動の日々がときに淡々と,そしてときに激情豊かに描かれる。決死の脱出のくだりには,これが現実の出来事なのかと改めて驚異の感情を抱く。
2022-09-30
2022年9月,東京六本木,「植田正治 ベス単写真帖 白い風」
「ベス単」は初めて聞きました。大正時代にアマチュア写真家の間で流行した「ベスト・ポケット・コダック」という単玉レンズ付きカメラのことだそう。そのレンズフィルターのフードを外して撮影すると独特のソフトフォーカス効果を得られるとのこと。
半世紀を経て,植田正治がその撮影手法をカラーフィルムで蘇らせたのがこの「白い風」シリーズ。懐かしい,とか郷愁を誘う,とかいろいろな形容の仕方がありそうな風景写真だけれど,「砂丘」のシリーズを思い出す構図の子どもたちの写真など,やはり植田正治の写真。
現代のカメラでソフトフォーカス機能を使ってもこういう写真は撮れないだろうなと思うのは,テクニカルな次元のことばかりではないと思えます。その一瞬の風景を切り取る写真家の眼がそこにある。赤いランドセルの少女。校庭の一本の木。民家の軒先。
会場にあった1981年刊「白い風」を手に入れたくなりました。あちこち検索してみたけど,そもそもほとんど流通なし。どこかの古書店か市で出会えることを祈りつつ。
2022-09-23
2022年9月,東京小石川,小石川植物園
茗荷谷駅から播磨坂をくだって小石川植物園へ。東京大学総合研究博物館の小石川分館に行ったことはあるのだけれど,植物園は実は初めて。学生の頃,近くに住んでいたのに当時は興味を持たずに足を運ぶことが一度もありませんでした。実は祖父がこの植物園のことが好きでよく話していたことをここしばらく思い出していて,職場の同僚からのお誘いに大喜びで出かけた次第。
彼岸花の群生が美しい。蕾はこんな姿をしているんだ。白い花もありました。不思議な形の竹の仲間。名前はもはや覚えられない(汗)。歩き回って,突然現れるレトロな売店でソフトクリームを食べて温室へ。
これがすばらしい! 大島や奄美の熱帯植物や,東南アジアの珍しい植物たち。思わずこれぞビザール!と大興奮。ランの温室ではまさに狂喜乱舞(?) あまりに興奮して写真は失敗したけど,ボウランLuisia teresの展示もたくさん。昨年インターメディアテクで見た「蘭花百姿」展で牧野富太郎原画による図版「ボウラン」(大日本植物志第1巻第3集)を思い出します。東大と牧野博士との複雑な関係は,来年のNHKの朝ドラで見ることができるのかも。ボウランは一度枯らしてしまった悲しい記憶があって,また育ててみたいのだけれど二の足を踏んでしまう。祖父がいたら相談したのにな,などと30年も前に100歳近くで亡くなった人のことを思い出してしまうこの頃。