2015-05-25

2015年5月,茨城笠間,ルーシー・リー展

 茨城県陶芸美術館は笠間芸術の森公園の中,少し高台になっているところに建っていて,建物の2階からは公園を見渡すことができます。とても気持ちのいいところ。ちょうど5月の連休中は公園で「笠間陶炎祭」が開催中でした。

  ルーシー・リーの器は,そのフォルムの美しさと,吸い込まれるような色彩に惹かれます。何年か前に21-21でも大きな展覧会があったし,昨年末に大山崎山荘美術館でも魅力的な企画展示がありましたが,今回は大半が日本初公開の作品なのだそう。

 展示室でキャプションを見ると「個人蔵」となっているものが多く,一人のコレクターのコレクションなんだろうか?「初公開」の経緯はよくわかりませんが,「自分だけのルーシ・リー」を所有している幸せな人がうらやましい。

 背筋をピンと伸ばし,器を成型するルーシー・リーの姿は,その作品と同じように凛として気品があります。ウィーンでの新婚時代,ナチスから逃れてロンドンへ移住,18歳年下のハンス・コパーとの共同制作。伝記が何冊か出ているので,その人生を辿ってみたい。
 
 陶炎祭の人出で賑わう公園をあとにして友部駅へ向かい,次の目的地の水戸へ向かいます。

2015-05-17

2015年5月,埼玉土呂,大宮盆栽美術館

 5月の連休を利用して,北関東を廻る短い旅をしてきました。忙しさを口実にしていたら,忘却のスピードが加速してしまいそう。まずは最初に向かったさいたま市の大宮盆栽美術館から。

 盆栽は前から興味があって(といっても苔玉とか所謂ミニ盆栽などの小さいもの),園芸店で求めたものをしばらく楽しんだりしたことがあるのだけれど,たいてい最後は哀しい運命をたどってしまい(泣),いつか時間ができたら盆栽教室に通ってみたいものです。
 
 大宮盆栽美術館は開館当初から是非一度行ってみたいと思っていた美術館。ちょうど連休に大宮盆栽村で盆栽まつりが開催されるというので,楽しみに出掛けてきました。
  2010年に開館したばかりの趣のある建物です。盆器,水石,絵画,歴史資料などを展示する導入部を経て,ギャラリーには盆栽が5点展示されています。その見事な姿はもちろんのこと,ガラスと照明によるモダンな展示空間の静謐な美しさには思わず息を呑みます。

 展示室の最後は真・行・草の三つの形式の床の間です。日本の伝統家屋の中で盆栽の美がいかにその魅力を発揮してきたかがよくわかります。書画との調和や床の間という空間におけるバランスなど,生命力が漲るその美しさには圧倒されます。

 そこではた,と考えるに,美術館という空間で「生きているもの」と対峙するのは稀有な体験ではないだろうか,ということ。写真を見るときに,生々しい生命力を感じることはあるけれど,盆栽は「生命そのもの」が展示されているわけです。かといって植物園や水族館で展示を見るのとは違い,「美術作品」を見ているのだ,という意識が大前提としてあるのですから,ここはかなりexcitingな美的体験の場所と言えそう。いやあ,楽しかった!

 美術館のすぐ近くに広がる大宮盆栽村は,かつて東京文京区の団子坂付近に多く住んでいた盆栽職人が,関東大震災後に盆栽育成に適した土壌を求めて移り住み,彼らの自治共同体として生まれた村なのだそう。

 NHKの「趣味の園芸」でおなじみの清香園はさすがにお洒落な印象。職人さんというより,スタッフのみなさんが若くてお洒落。表参道で盆栽教室をやっているそうで,詳しいパンフレットをいただいて帰る。盆栽祭りは大変な人出。外国からの観光客もたくさんいて,「盆栽の聖地」はにぎやかでした。ミニ盆栽を3つ買ってきました。今のところ(!)元気です。清香園の入口と盆栽まつりの様子。まぶしい5月の風。

2015-05-06

読んだ本,「ママ・グランデの葬儀」(G・ガルシア=マルケス)

 ここのところ,知識を仕入れるための読書が続いて(身になったかどうかは別として),小説をほとんど読んでいなかった。この連休に北関東をぐるりと廻る短い旅をすることにして,その道連れに選んだのがガルシア=マルケスの「ママ・グランデの葬儀」。
  かなり前に読んだ気になっていたのだが,図書館でパラパラと頁をめくったら,その登場人物もストーリーもまったく記憶にない。借り出して,まずは大宮へ向かう車中で「火曜日の昼寝」,「最近のある日」と順に短編を繰っていく。

 「最近のある日」は野谷文昭氏が東大最終講義で「世界で一番美しい水死人」と併せ読みをすることによって小説を読む醍醐味を語ってくれた短編。わずか4ページだが,文章自体も短く簡潔で,作者は語らない。一体何が起きているのか,描かれている顛末は明確だけれど,まるでミステリーのようでもある。だからこそ,今一度「世界で…」も読み返してみよう。

 「ママ・グランデの葬儀」は「百年の孤独」につながるマコンドを舞台にした短編。淡々と語られるママ・グランデの死のストーリーは,他の短編と比べるとマルケスらしさみたいなものが希薄に感じられる。

  「この村に泥棒はいない」や「バルタサルの素敵な午後」のような,これぞマルケスという奇想あふれる短編を読んでいると,一瞬時間や場所の感覚が歪むのがわかる。私はこの電車に乗ってどこへ向かっているのか。

 旅の伴としてはよい選択だっただろうか?いずれにしても1泊2日の旅程は,旅先の楽しい思い出と,この短編集の充実した読後感に満たされて,すこぶる楽しい時間だった。大宮盆栽美術館,笠間陶芸美術館,水戸芸術館,茨城歴史館については次項で。