2022-05-22

読み返した本,「マイケル・K」(クッツエー)

 かなり前に一度読んだことのあるJ.M.クッツエー 「マイケル・K」を読了。四天王寺の古本まつりで見かけてなつかしく,求めて旅の伴にして読み終えた。

 戦時下に体制に抵抗して自由に生きるマイケル・K。「自由に」の真の意味を知っているか,と作家から問われているような読書体験だ。

 「何もかも遠ざかっていった。朝目が覚めると,目の前にあるのは,一個の巨大な塊となった一日だけ。一日が時間の区切りだ。自分は岩に穴を穿つ白蟻だ。ただ生きていく,することはそれだけのように思えた。じっと静かに座っていた。鳥が飛んできて肩に止まったとしても驚かなかっただろう」(p.106)


2022年5月,大阪・京都(3),京セラ美術館・京都国際写真祭・みやこめっせ

 3日目は岡崎へ向かい,京都市京セラ美術館へ。ずっと行きたいなあと思っていた美術館。京都市美術館の時に何度か行った記憶はあるけれど,何を見たのかも印象に残ってない。。広々としたエントランスが気持ちよい,と思った瞬間,開館前の長蛇の列にびっくり仰天。特別展のポンペイ展や兵馬俑展の行列のようでした。

 大型展は避けて,PATinKyoto京都版画トリエンナーレ2022とコレクション展を見ることに。19人(組)の中堅/若手作家の展示は傾向が様々で面白い。知らない作家ばかりでした。吉岡俊直。西村 涼。

 コレクション展も充実です。森村泰昌は好きじゃないのだけど,館内の階段を舞台に女優に扮した「リタ・ヘイワース」はマヌエル・プイグの「リタ・ヘイワースの背信」を思い出してちょっと上がる。


 京セラ美術館の別館では京都国際写真祭のアーヴィング・ペン展を。この写真家もいろんなところで見たなあ。何と言ってもロンドンのポートレートギャラリーで見た展示を思い出してしまう。ガエル・ガルシア・ベルナルのポートレートがあると嬉しいんだけど。。

 残念ながらありませんでした。でもポートレートシリーズだけじゃなくて,幅広いセレクトが楽しい。この世のものと思えない花たちの写真集FLOWERSは一番ほしい本の一冊かな。チューリップのイメージ。
 さて,京都最後は別館の向かいのみやこめっせへ向かい,帰りの時間まで春の古書大即売市を楽しむことに。大阪と比べるわけじゃないけど,本の状態がよいものが多く,気分もノリノリ。バベルの図書館シリーズのチェスタトンや,ラテンアメリカ文学叢書のリョサ「子犬たち」,瀧口修造の詩的実験(復刻版)などなど。

 京都の最後は国立近代美術館のカフェでゆっくり。いやあ,大充実の2泊3日でした。やはり旅は楽しいです。ところで,今回の写真は全部スマホ撮影です。

2022-05-21

2022年5月,大阪・京都(2),奈良原一高「ジャパネスク」(京都国際写真祭)・大江能楽堂

 2日目の朝は建仁寺へ。2018年に早朝の座禅会に参加したまさにその両足院で開催中の奈良原一高の写真「ジャパネスク 〈禅〉」を見るのが目的。4月から5月にかけて京都国際写真祭KYOTO GRAPHIEの展示の一つです。

 おお,あの座禅を組んだ部屋に展示が。会期中は座禅会は別の部屋なんだろうか。このシリーズは何度も見たことがあるのだけれど,やはり禅寺で見るのは特別な体験だろう,と思っていたのですが。。

 何しろ人が多いんだ。どこに行っても。人数制限はあったけれど,一度に部屋にどやどやと入った観客のマナーもよくなくて,やはりこういうのは人が少ない時を狙って行かないとダメだわ。と痛感いたしました。展示の支持体もいかにも即席で安っぽい。高い入場料を取るなら,それなりの運営をしていただきたい。とアンケートに書いてしまった。

 寺町通のレトロな喫茶店でおいしいフレンチトーストをいただいて気分を直したところで,次に向かったのは大江能楽堂です。明治41年創建,改修を重ねて現存する古い能楽堂でぜひ一度お能を拝見したいものだと思い続けていたのでした。今回ついにタイミングがばっちり。しかも大好きな「善知鳥」も番組に入ってる!しかもワキは福王一家だ!

 「西行桜」(シテ:大江又三郎、ワキ:福王茂十郎、ワキツレ:福王和幸)、棒縛(茂山忠三郎ほか)、「善知鳥」(シテ:宮本茂樹、ワキ:福王知登)というまるでワタクシのための番組かというラインナップで期待度満点。

 自然光の射す能楽堂は確かに古い(かなり)けど,趣があるということで。400の席数はほとんど埋まってたかも。いつも通り脇正面に座って堪能しました。シテの大江又三郎師はかなりのご高齢のようで,舞台で立ち上がるときにひっくり返っちゃった。。そんなアクシデントも霞むすばらしい舞台を堪能して大満足。
 夕刻は三条通界隈の骨董やアンティーク店をぶらぶら覗き,久しぶりに京都の夜散歩を楽しんで2日目はおしまい。
 

2022年5月,大阪・京都(1),大阪市立美術館・大阪中之島美術館

 5月の連休に大阪と京都へ2泊3日の短い旅をしてきました。今頃になってなんだけど,忘備のために短い旅の記録を残しておこう。久しぶりに自由な連休とあって,移動の交通も観光地もとにかくすごい人出(自分もその一人なわけで)。楽しかったけど,人混みに少々疲れた旅でもありました。

 何でわざわざ連休にかというと,目的のイベントが3つありまして。四天王寺の古本まつり(大阪),大江能楽堂の定期能,みやこめっせの古書市(京都)というわけ。それに加えて,中之島美術館と京セラ美術館も行ってみたい!となったわけ。詰め込み過ぎですな。。

 で,まずは四天王寺に向かう前に大阪市立美術館で「華風到来 チャイニーズアートセレクション」というすばらしい展覧会を堪能。チラシやポスターのイメージになっている「上海娘」(島成園)がなんとも魅力的で,これは面白そう、と思って会場に入ったら度肝を抜かれるような展示の数々!

 なんたって北宋の書家,米芾の《草書四帖》には悶絶。九帖のうち台北故宮に二帖,そしてここに四帖って。いやあ知りませんでした。米芾の書には理屈を超えて惹かれます。力強い?流麗?そんな言葉を当てはめるのが無粋と言わんばかりの神々しさの前に,ぽかんと口を開けて佇むのみ。

 そして初めて聞いた名前の島成園。魅力的な作家だなあと思ってたら,最近になって新聞の美術面でその来歴が紹介されてました。激烈な画風から転じて人形のような人物を描くようになったのには,芸術に無理解な夫の存在があったらしい。上海はその夫の転勤に伴って住んでいたのだそう。そうか,あの寡黙な上海娘の醒めた視線の先の蝋燭に灯されているのは,一人の女性の人生そのものだったのか。
 第4章には「好きならたくさん集めたい。―中国の石像彫刻」なんてタイトルがついていて,とにかく圧巻の展示。併設のコレクション展もコプト美術やイランのラスター彩タイルなど,ドツボにはまる(?)作品の数々に大興奮でした。いやあ,また見たい。9月にサントリー美術館でコレクション展があるらしく,今から楽しみ。

 さて,この勢いで乗り込んだ四天王寺の古本祭りは写真を撮り忘れました。。全体的に価格設定は安いのですが,状態の悪い本が多くて今一つだったな。菊池信義装丁の「高丘親王航海記」(澁澤龍彦)とか,ラテンアメリカ叢書の「ママ・グランデの葬儀」(ガルシア・マルケス)などが戦利品。

 古本祭りを切り上げて向かったのは大阪中之島美術館。
 とにかくかっこいい美術館。これはテンション上がります。場所も国際美術館のすぐ近くだし,大阪恐るべしですね。「みんなのまち 大坂の肖像(1)」展もこういうのをサイト・スペシフィックな展示というのか,という内容の濃さ。安井仲治、小石清の写真。

 さて,大阪はこれで切り上げて,次は京都へ。

2022-05-10

読んだ本,「禿鷹」(カフカ)

 バベルの図書館シリーズの「禿鷹」(カフカ 池内紀訳 国書刊行会 1988)を読了。未読の「万里の長城」が含まれているのと,久しぶりに「断食芸人」を読みたかったので図書館から借りてきた。バベルの図書館シリーズはあまり古書市でも見かけない。ファンが多いのだろうなと思う。

 魅力的な短編ばかりであっという間に読み終える。ただ,なぜか連休をはさんで急ぎの仕事が立て込んでしまい,ゆっくり考えたり言葉にするのが難しくもどかしい。未読だった「禿鷹」の最後の一節を引用して忘備としよう。

 「さっと舞い上がったかと思うと,はずみをつけるために一度うしろへ飛びすさり,つづいて槍のようにくちばしを突きたて,私の喉深くとびこんできた。私は仰向けに倒れた。のどの奥から,どっと血が噴き出した。みるみるあたりは血にあふれ,その中でもがく間もなく禿鷹が溺れていく。それをみて私はほっと安堵した。」(p.19)