2022-07-31

2022年7月,東京渋谷,映画「魂のまなざし」

  暑い夏の一日,アートを楽しむ至福の一日を過ごしました。まずはbunkamuraル・シネマで「魂のまなざし」を。フィンランドの画家であるヘレン・シャルフベックの生誕160年記念公開作ということで,フィンランドでは大ヒットした作品なのだそう。


 この映画のことを知って,あれ,シャルフベックって確か数年前に芸大美術館で展覧会をやってたよな,と思い出しました。調べてみたら2015年のことでした。面白そうだなと思いつつ,足を運ばなかったことを7年経って深く後悔。見ておけばよかった。

 映画のビジュアルはヘレンの実作「黒い背景の自画像」をこの映画の主演ラウラ・ビルンの姿で描いたもの。映画の中でも自画像を描くシーンが何度もあり,自分を見つめるまなざしに圧倒される思い。そのまなざしは画家であり,一人の人間であり,女性であるヘレンの「魂」そのものだったのか,と思えます。

 50代で出会った19歳年下のエイナルへの愛はあまりに切なく,胸が締め付けられる。何だか他人事じゃなく思えてきて,ひたすら愛の成就を願いながらスクリーンを見つめたのでした。

 さて,映画を堪能したあとは恵比寿へ。久しぶりに写真美術館へ向かいました。

2022-07-22

読んだ本,「チベット幻想奇譚」(星泉,三浦順子,海老原志穂編訳)

 朝日新聞書評で横尾忠則の面白いレビューを読み,手に取ってみた。「チベット幻想奇譚」(星泉,三浦順子,海老原志穂編訳 春陽堂書店 2022)読了。

 まえがき(三浦順子)より:「人は幻想小説を読むことで,異界を垣間見るというひそやかな愉しみを得る。でもこの「チベット幻想奇譚」のなかで描かれる異界の多くは,現実世界から乖離したものでなく,チベット文化の地層の奥深いところに,日常生活の片隅にごくあたりまえに存在するものであり,日本人にとってもどこか懐かしく,なじみ深ささえ感じられるに違いない。」

 面白かった。しかし,日本中を震撼させた事件の直後に読んだために,「異界」が日常と隣り合わせであることに恐怖を覚えるばかりで,ページを繰る手がどんどん重くなっていったのは事実だ。そういう意味で心にささったのは「人殺し」(ツェリン・ノルプ),「屍鬼物語・銃」(ペマ・ツェテン),「ごみ」(ツェワン・ナムジャ)など。

2022年6月,山形の旅(5),鶴岡,致道博物館・鶴岡カトリック教会

 3日目,前夜の大雨で鶴岡から新潟へ向かう特急に遅れが出ているみたいけれど,昼頃にはダイヤも回復するだろうと,予定通り午前中は鶴岡市内観光へ。…この判断が後のち影響してくるとはつゆ思わず。。

 まずは致道博物館へ。「酒井忠徳と庄内藩校致道館」展が開催中でした。致道館の祭器・楽器の展示が圧巻。博物館の敷地内には酒井氏庭園ほか,民家あり,旧鶴岡警察署庁舎の洋館あり,ちょっとテーマパークみたい。江戸藩邸から移設された赤門には,おや本郷の赤門だけじゃないんだとちょっとびっくり。

 気持ちのよい鶴岡公園を横目に見ながら,鶴岡カトリック教会へ。想像していよりもずっと荘厳な教会に感動。同じ敷地内にある幼稚園に響くかわいい子供たちの声を聞きながら,信者でなくても神への祈りを捧げたくなる。

 日本でただ一体の「黒い聖母」像はフランス・ノルマンディー州デリブランド修道院から明治36年に由来したものだそう。様々な奇跡やエピソードを持つというマリア様のお顔はとてもとても美しいものでした。

 さて,JR鶴岡駅へ戻り,定刻ダイヤに戻った特急で新潟へ向かったのですが…。羽後線は再びの大雨で足止め。2時間近く待ったものの,運転再開せずに代替バスで新潟へ向かうことに。夕刻に新潟に到着したときには力尽きて,駅前で予定外のもう1泊。新潟を観光する気力は残ってなくて翌朝の新幹線で帰ってきました。

 やっと6月の旅行の記録をアップできました。コロナの波と追いかけっこのように旅をしています。

2022-07-12

2022年6月,山形の旅(4),鶴岡,鶴岡市立加茂水族館

 山頂から駅前に戻り,加茂方面へのバスに乗り換えます。分刻みの旅程でした! 個人旅行でレンタカーを使わないとなると,地方では足が限られるので結構大変。スマホを握りしめて旅をするのは何だかなあと思うけれども,これほど便利なものはないわけで。

 かもすいこと加茂水族館はとにかくワンダフル!なクラゲワールドです。楽しかったあ。日本海に面した建物も面白い。曲線を描く巨大なコンクリート。

2022年6月,山形の旅(3),鶴岡,三神合祭殿・出羽三山歴史博物館

  旅程2日目。 出羽三山のパワーを感じながら現在・過去・未来を旅しよう,というガイドブックの惹句にそのまま乗っかって,早朝から羽黒山山頂を目指します。 しかし,2446段の石段を1時間強かけて登るというのはかなりきつい。。 というわけで,山頂までバスで行きました(汗)。 さんざん「登頂」と言っておいてバスかよ,と一人つっこみ。
 なので石段の途中の五重塔はカットしてしまいましたが,その分(? )山頂でゆっくり時間をとったので出羽三山歴史博物館をゆっくり拝見してきました。 特別展「湯殿山御沢仏参拝」と「出羽三山開祖蜂子皇子御尊像参拝」が開催中でした。 「湯殿山…」は御沢駆けを体感して生まれ変わりの道を巡るというもの。 
 にわか仕込みの薄っぺらな知識では?? の連続で,解説を必死で読みながらとなりましたが,得難い機会だったなあと感動しきり。 ここは死と再生の山なんだな。 生まれ変わりを熱望するほど現世に絶望しておりませんが(! ),ありがたい「おあか」も頒けてもらえて感動倍増。 そして帰路もバスに乗りました!

2022-07-09

2022年6月,山形の旅(2),酒田,山居倉庫・本間美術館

 酒田駅へ戻る途中に立ち寄ったのが山居倉庫。酒田旅行でははずせないスポットらしく,フォトジェニックな風景にテンションがあがります。歴史的な背景は旅行の前に「日本の歴史を問いかける: 山形県〈庄内〉からの挑戦」(地方史研究協議会編 文学通信 2021)を読んでおきました。
 
 バスの時間に合わせて早々に切り上げて,次に向かったのは酒田駅に近い本間美術館。「本間家伝来の宝物 第二部 書籍と工芸品」展が開催中で,素晴らしいお宝の数々に興奮。とりわけアジア伝来の焼き物がつぼ。17世紀の安南水指や,高麗青磁の平茶碗などなど。うっとり。

 別邸の清遠閣はモダンな調度がなんとも素敵だ。建築当時のものという窓ガラスに引き込まれそう。

 さて,翌日は早朝から出羽三山登頂を目指すので,この日のうちに鶴岡へ移動して一泊します。半日あまりの滞在を堪能して酒田をあとにしたのでした。 

2022年6月,山形の旅(1),酒田,土門拳記念館

 日本で最初の写真専門の美術館ということで前から一度行ってみたかった土門拳記念館。酒田へは上越新幹線で新潟に出て,そこから羽越本線で日本海沿いに北上しました。飛行機なら庄内空港まで約1時間なので,かなり時短になるみたいけれど,今回はJRのパスを使ったのでのんびり鉄道の旅です。酒田はとても静かで素敵なところ。

 飯森山公園内の土門拳記念館までは路線バスで。本数が少ないですが,事前に調べておけば心配ご無用!ってなわけで,すいすい旅程は進む。

 特別展「木村伊兵衛と土門拳」展が7月3日までの会期で開催中でした。「ともに日本における近代写真/リアリズム写真の開拓者として知られています。しかし,その人柄や作風は大きく異なっていました」(展覧会チラシより)という2人の写真が並んでいます。

 1枚の写真がまるで1篇の映画のような木村伊兵衛の作品群と,1つの被写体を徹底的に凝視するような土門拳の作品群と。木村伊兵衛の方が好きだな,という漠然とした先入観を持っていたけれど,圧倒的な迫力の写真を見ていると,どちらが好きかなんてどうでもよくなってくる。それぞれの仕方で迫ってくる写真の力を前にして,見る力を試されているよう。どうだ,と言わんばかりに。

 谷口吉生の建築は美しく,端正な趣です。展示室や廊下にさりげなく置かれた椅子に腰かけて,ふうと一息つくと,観客の想いをすべてを受け止めてくれるかのようです。2時間ばかりの滞在時間を堪能して,再び路線バスで市街地へ戻りました。

2022-07-05

2022年6月,山形へ

 JRのお得なきっぷを使って2泊3日の旅程で山形へでかけてきました,が!ハプニング発生で3泊4日になってしまいました。。酒田の土門拳記念館,本間美術館,鶴岡の賀茂水族館,羽黒山登頂などなど,よくもまあ,という感じでめぐってきたのですが,重いカメラは持って行かなかったのでスマホの画像をゆっくりアップします。これは賀茂水族館のクラゲ。聞きしに勝るクラゲワールドに大興奮。

2022-07-02

2022年6月,琉球展,エリオット・アーウィット,津田清楓展

 6月にでかけた展覧会の忘備録。東京国立博物館の「琉球展」。王国の宝物類は既視感のあるものが多かった(2018年サントリー美術館の「琉球 美の宝庫」展を思い出す)けれど,アジア各国との交易の様子や,しまの人々の祈りの姿の展示は新鮮な驚きがあって面白かった。

 六本木のフジフィルムスクエアでエリオットっ・アーウィットの写真を見る。「観察の美学」というタイトル。美しいゼラチン・シルバー・プリントで記録された美しい人生の姿を垣間見る。日々流れる世界の映像は哀しみに満ち溢れているけれど,写真家が切り取った世界は涙が出そうになるほど美しい。

 渋谷の松濤美術館では「津田清楓 図案と,時代と,」というタイトルの展覧会を見る。明治から大正時代にかけて活躍した津田清楓の図案の数々と,実際の造本などなど。夏目漱石の装幀は復刻版で目にするもののオリジナルなわけで,時代をまとう美しさに惚れ惚れする。刺繍作品は,おや,実際に手を動かすんだ,とちょっと意外な感じ。

2022-07-01

読んだ本,「パンとサーカス」(島田雅彦)

 島田雅彦の新刊「パンとサーカス」(講談社 2022)読了。壮大なエンタメ小説かと思いきや,これは一体どこまでが現実のことなのか,連日のウクライナの報道を見ながら日本の行く先を考えて胸がざわつく読書となった。20年後,日本は中国の属国になる?!

 「世界の敵」コントラ・ムンディは本当に現れる,否,存在するのだ,と言ったら驚く向きもあるかもしれないが,私は彼らの展覧会(!)に行ってきた。現実の話である。

 というのはこの小説の新聞連載時に挿画を担当したのは6人の若手アーティストで,連載各回を次々と交代しながら自由な発想で描写したのだという。彼らのユニット名が「コントラ・ムンディ」。

 4月から5月に四谷のミヅマアートギャラリーで彼らの挿画の仕事を堪能し,トークイベントで島田氏にサインをもらった。寵児と空也がギャラリーの隅に腕組みをして立っていた。マリアはサインをもらう列の最後がどこかわからず,ウロウロしていた。

「書物は魂を遠くへ飛ばすエンジンになる。古今東西の妄想家たちが練りに練った奇想天外の物語,世界に放った呪詛,自らを実験台にして掴み取った真実が,空也の目に触れるのを待っていた。ユーザーの心がけ次第で,刑務所は偉大な妄想家の養成機関になり得る。詩人や小説家,思想家には,刑務所や収容所にいた者,流刑,追放,亡命の憂き目に遭った者,生前には作品が発表されなかった者,正気を失った者などが数多くいて,おのが不遇を競っているかと思えるほどだ。」(p.521)