2013-11-23

2013年11月,アムステルダム(終),スキポール空港

 さて,最終日はお昼すぎの便でスキポール空港を出発します。午前中,ノイエマルクト広場の蚤の市を楽しみにしていたのですが,11月から3月は市はお休みになるようでした。残念。運河沿いをぶらぶらと歩き,レンブラントハウスを再び訪れてゆっくりと館内を廻りました。

  ホテルを出るときは青空ものぞいていたのに,突然の激しい雨。雹もまじり,オランダの変わりやすい天候に最後まで振り回されました。夕刻出発した友人によると,大雨のあと,虹が出ていたそうです。空港にて。尾翼の向こうにかすかに青空。
  アムステルダム6泊7日,堪能したようでもあり,まだまだ行ってみたいところもたくさんあります。またいつか再訪できることを祈りつつ。最後にお世話になった皆さまと,拙い旅行記にお付き合いいただいた皆さまに感謝の花束を。

古いもの,骨董通りで買ったもの,1800年頃のデルフト焼

  アムステルダム国立美術館の前の骨董通りに面した店のウィンドウで,こんなデルフト焼に出会いました。この皿の周りは,青と白の2色使いのものばかり。ちょっと異彩を放っていたこの1枚の色使いと文様にびびっときました。

  文様が日本風にも見えます。ブロンド美人の店員さんにしつこいくらいにアジアのものではないのか,デルフトで焼かれたものかと確認する。1800年頃のデルフトのものです,ときっぱりと返事が返ってきました。縁に少し難があり,完品ではないので表示の額より少しディスカウントしてくれる。

 手際よく梱包する指先の動きをぼんやりと見つめながら,ああ,と思う。明日,この古皿は,遠い東の国に住む女の手荷物に収まって飛行機に乗り,ここアムステルダムから長い長い旅をして,二度とこの地へ戻ることはないのだ。

2013年11月,ハーレム/アムステルダム(8),フランス・ハルス美術館/アムステルダム国立美術館ふたたび


 あっという間に6日目,11月2日は朝から雨があがり,アムステルダム駅から鉄道で一人ハーレムに向かいました。窓口でハーレム往復の切符を購入,急行電車に飛び乗る。アムステルダム駅から15分くらいで到着です。
 
 駅前からまっすぐ伸びる道を南下します。人が少ないわけではないのに,とても静か。自然と歩く速度もゆっくりしてしまう。10分くらいで到着したマルクト広場には,土曜日は市が立っています。色鮮やかな花,みずみずしい果物,そしてオランダの犬。服を販売するテントの片隅で。
 
  マルクト広場に面して立つバフォ教会は威風堂々,厳かな雰囲気です。「信仰」と「日々の暮らし」が密着した広場からさらに南下して,フランス・ハルス美術館を目指します。
 
 街の辻々に観光客に親切な道標が立ち,細い路地を見逃すことなく,美術館に到着しました。この通りはガイドブックにも書いてあった通り,本当にきれいな通りです。どこを切り取っても絵になります。

  フランス・ハルス美術館は今年,創立100周年を迎えるのだそう。元は養老院だった建物は想像していたよりもずっと大きい。中庭をぐるりと取り巻く展示室を順番に見ていきます。フランス・ハルスだけでなく,同時代にフランドルで活躍した画家の名品も数多く展示され,ブルージュで見たメムリンクや,ブリューゲルの作品なども。
 フランス・ハルスは,昨年上野で見たマウリッツハイス美術館展の「笑う少年」が強烈で,あまり良い印象ではなかったのですが,酒井忠康氏の「人間のいる絵との対話:ヨーロッパの画家たち」(有斐閣,1981)を読んでがらりと印象が変わりました。ハーレムにあるこの美術館のことも同書で初めて知りました。「老人救貧院の評議員たち」(本書表記による)に関する次のような記述は印象深いものです。

 「…不用意にことばにできない,なにかが,そこに存在する。いつのころか,ならいおぼえた人間の虚無の,どっしりとした豊かさといったものが,そこにはあるからだろう」(p.34) 
 
 平出隆氏のアムステルダムしかり,酒井忠康氏のハーレムしかり,書物が導いてくれる旅の時間は私にとって,「閉ざされたもう一つの世界」へ足を踏み入れることができる,この上なく稀有な時間です。
 
 このまま元の世界へ戻れなくなったら,という幻想小説のような展開を妄想しながら,マーケットで買ったおいしいレモン・ビスケットを頬張ってハーレム駅まで戻ります。途中,素敵なアンティークショップの店先でヴィンテージ・ダイヤに魂を奪われる。どこまでも俗物なのです。そしてお値段を見て諦める。どこまでも現実的なのです,私は。バイオリンの工房兼ショップの前で。
 さて,アムステルダムに戻ったのが午後2時を回ったころ。夕刻まで,アムステルダム国立美術館のまだ見ていない展示室を廻ろうと,トラムに乗ってミュージアム広場に一直線。地階で昨年のミュンヘン旅行で初めて知ったリーメンシュナイダーの彫刻をゆっくりと仰ぎ見ます。 

  さて,とうとうアムステルダム滞在も翌日午前中を残すのみ。後ろ髪ひかれまじ,と気になっていたデルフト焼の古皿の店に向かいます。

2013-11-19

2013年11月,アムステルダム(7),コンセルトヘボウでマーラーを聴く

 11月1日の夜はコンセルトヘボウに出かけて,マリス・ヤンソンス指揮のロイヤル・コンセルトヘボウ・オーケストラでマーラーの2番「復活」を聴きました。ちょうどこの項を書いている前日の11月18日に来日最終公演が行われましたが,コンセルトヘボウではマーラーを聴くのが醍醐味らしい。来日公演ではベートーベン,チャイコフスキーなどが演奏されたようです。日本ではチケットも高額だし(現実的),まさに本場でマーラーを聴けるなんて,過分の幸せ。コンサートは8時15分に始まるので,外観は昼間のうちに撮影したもの。ミュージアム広場からトラムの走る道路をはさんで向かい側。
今年はコンサートホールであるコンセルトヘボウと,ロイヤル・コンセルトヘボウ・オーケストラがともに創立125周年を迎える記念の年なのだそう。華やかなムードがいっぱいにあふれるヨーロッパのコンサートホールなんて,私の過ごす日常とはおよそ別世界です。ロビーホールのシャンデリア。
  友人が手配してくれたチケットで私が座った席はもう少し後ろです。それにしても美しき迫力。クラシック音楽を語る語彙があまりに貧困なので,夢のような時間だったとしか綴れないのが情けない。ブラヴォーと万雷の拍手の時に観客が一斉に立ち上がると,自分の前後左右が壁のように感じられました。オランダ人は男性も女性も,みんな大きい。

2013-11-18

古いもの,パイプミュージアムとアンティークマーケットで買ったもの,lacquerの鼻煙壷/デルフト焼のティーボウル

 パイプミュージアムには中国の喫煙文化に関する展示もあり,やはり独特の雰囲気があります。ヨーロッパのパイプからは「粋」とか「ダンディー」とかを連想するけれど,中国となると「妖美」と感じてしまうのは映画や小説からの個人的な先入観だろうか。
 
 地階のショップでヨーロッパのスナッフ・ボックスか,フェルメールで教えてもらったパイプ・ダンパーを一つ買おうと思っていたのだけれど,中国の鼻煙壷の棚を見て,この漆の鼻煙壷に一目惚れです。微細な模様と,可憐な花柄がとてもきれい。蓋のコーラルの色合いが調和していい感じです。清代のもの。はるばるオランダからやってきて,私のささやかなコレクションに加わりました。
  アンティーク・マーケットでは手頃な小物がたくさんあって,いくつか買い求めました。中でも嬉しいのはこのデルフト焼の小さめのティーボウル。ちょうど煎茶茶碗として使えるくらいの大きさです。19世紀末と書いてありました。
 
  思っていたよりも素敵な古いものにたくさん出会えて,かなり勢いがついてしまった。前日に骨董通りで見たデルフト焼の小皿もまた気になってきました。手頃というには少し値が張るものだったので,もう一日考えよう。

2013年11月,アムステルダム(6),海洋博物館/アンティークマーケット/パイプミュージアム/世界の果て書店


 アムステルダム滞在5日目,11月1日はまずはトラムでセントラル駅に向かい,駅の東側にある国立海洋博物館を訪れることにしました。駅から10分ほどの東埠頭まで歩くと,アムステルダム公共図書館Openbare Bibliotheek Amsterdamの建物が見えてきました。2007年に開館したヨーロッパ最大の公共図書館ということ。9時オープンの博物館に合わせて出かけてきたので,10時開館の図書館はまだオープンしてません。残念だけど外観と入口付近を覗き込んで直進。
 国立海洋博物館Het Scheepvaartmuseumも2007年から改修工事を行って2011年にオープンしたばかりということ。外観は古い武器倉庫で,外からは見えませんが,中庭がガラスと鉄鋼の天井で完全に塞がれていて,想像以上に規模の大きいミュージアムです。展示は海洋国家の過去の栄光と帝国主義的発想の成果を示すものが延々と続くわけですが,展示の仕方がとてもダイナミックで斬新です。 
 
 16世紀,17世紀~のものたちが生き生きと館内で躍動しているイメージと言えばよいのか,船の模型の展示もまるで自分が小さくなって船の上にいるような気分になります。映像関係もたくさんあって,大人も子どもも楽しめるミュージアムでした。船旅を体験できるという3D(約15分だったかと)は船酔いしそうだったので(…)パスしました。屋外には東インド会社の帆船アムステルダム号(復元)が展示されています。雨で通路がすべりがち。落っこちないように気をつけよう。

 思いのほか,たっぷり時間をかけてしまい,かなり歩いたこともあって帰路はセントラル駅までバスに乗ります。図書館は,まあいいか,ということにしてしまった。さて,駅からはまたトラムに乗って,市街の西に位置する屋内のアンティークマーケットを目指します。入口は小さいけれど,中に入ると広いこと広いこと。ぐるぐる歩き回って,魅力的なものをいくつか見つけて購入。デルフトのティーボウル,ハンガリーの香水瓶,ほかにワイングラスや絵皿なども。
 
 さて,次に向かったのはPrinsengrachtにあるパイプミュージアム。ここは,夏休みに金沢のアンティーク・フェルメールを訪ねた際,店主の塩井さんが薦めてくれたところ。ミュージアムの入口がわからず,地階のショップに入って尋ねたら,そこが入口になっていました。入館にはミュージアムカードが使えます。階上の展示室を丁寧な説明をしてもらいながら1周,各国の古いパイプコレクションが圧巻です。地階のショップで素敵な鼻煙壺に出会いました(次項で)。
 あっというまに夕刻です。日暮れの前に,毎週金曜日にスプウ広場で開かれているという古書市へ大急ぎで向かう。American Book Centerの前の広場が会場になっています。英語の画集や写真集も多く,目移りしてしまうのですが,これぞ,というものはなかなか見つかりません。ラルティーグが少年時代に撮影した写真集BOYHOOD PHOTOS OF J.H. LARTIGUEのソフトカバー版があって,そのときは本の状態がよくないし,20ユーロ(3000円弱)は微妙だし,と思って購入しなかったのを今は後悔(こんなのばっかり…)。
 すっかり日が暮れてきました。スプウ広場からSingel運河沿いに少し北へ歩きます。今回,ぜひ訪れたかった書店へ。平出隆がドナルド・エヴァンズをたどってアムステルダムに滞在したときのことを綴った短いエッセイが「ウィリアム・ブレイクのバット」(幻戯書房)というエッセイ集に収められています。その目次の最初に登場するのが「世界の果て書店」という名前の書店です。
 
 エッセイでは「運河沿いにある」「第三世界や辺境の本を扱う」「地階には,音楽関係を扱う世界の果てミュージックがある」「壁に世界の果て書店と書いてある」という記述しかありません。しかも平出氏が訪れたのは1980年代のこと。いろいろ検索したものの現地での住所はおろか,店名もわからず途方にくれていたところ,書店をはじめ,オランダのいろいろな情報を紹介しているアムステルダム在住の日本の方のブログを見つけたのが出発の10日ほど前。半ばすがる気持ちでコメント欄から質問してみたところ,すぐに「世界の果て」という意味のフランス語Bout du Mondeという名前の書店がシンゲル運河沿いにあると教えてくださったのです!お店のアドレスやHPも教えていただき,1970年代から開業しているというこの店に間違いないだろう,という確信のもとでかけてみました。
 
 現在扱っている本はインドや精神世界に関するのものが大きな比重を占めているようですが,アフリカやアジア関係のたくさんの本。そして入口の右手側の階段の地下には古いLPレコードがぎっしりと詰まったショップも。別の名前の看板が出ていましたが,「ここも以前はBout du Mondeという店名でしたか」と気難しそうなレジのおじさんに聞いてみたら,「??」という沈黙のあと,Yes.と一言。間違いあるまい(私の英語がちゃんと通じていたら)!
 こうしてまた,画家の人生を辿る詩人の旅の一コマを辿ることができて,本当にうれしい体験となりました。本当に親切で心優しい方のおかげです。階段でこけそうになりながら,通りに出て何枚も写真を撮りました。日の暮れたアムステルダム,運河のほとり,「世界の果て書店」。一生忘れないと思う。

2013-11-17

2013年10月,アムステルダム(5),ゴッホ美術館/American Book Center

 一旦 アムステルダム国立ミュージアムを出て,昼食がてら運河側のNieuwe Spiegelstraat通りの骨董店を覗いてみました。古いデルフト焼のタイルやプレートがずらりと並ぶ店のウィンドウで一つ気になるデルフトの小皿に出会う。この小皿の顛末記はまた後ほど。

 ところで,今回の旅は美術館めぐりが主な目的だったので,最初にMuseum jaarkaart(約50ユーロ)を購入しました。これはオランダの主要な美術館の入館に使える1年有効のカード(特別展で3~5ユーロほど別料金がかかるところもあり)。初日ですでに元は取れましたが,この日も「後日国立ミュージアムにまた来るとして,午後はゴッホ美術館に寄ってざっと見てからまた国立ミュージアムで友人とおちあう」みたいなことが気楽にできて便利でした。アムス旅行にはほかにも交通機関と組み合わせたカードなど,便利なカードが数種類あります。

 ゴッホ美術館はせっかく来たからおさえておくか,という感じで入館したのですが,彼の人生をたどる展示はとてもスリリング。リートフェルト設計の本館は建物そのものが一つのアートで,何気ない角度で撮った1枚も「りートフェルトの作品」になっているのがとても魅力的です。
  地下階でつながっている新館は黒川紀章の設計。残念ながら展示替え中で中には入れませんでしたが,接続部分や地下スペースのショップは六本木の国立新美術館となんとなく似てる。まあ,それはそうか,と一人ごちる。

  さて,夕刻近くなって国立ミュージアムに戻り,オランダ統治時代のジャワ島の文物や,船の模型なども面白く見て,地下階の1100‐1600年代の展示を残して時間切れ。食事には少し早い時間だったので,スプウSpui広場の書店American Book Centerへ。

 「世界で最も美しい書店」や「世界の夢の本屋さん」(ともにエクスナレッジ)に登場する書店です。店名通り,英語の本を扱う書店で,吹き抜けの黒い書棚が圧倒的。黒だと,本を引き立てるけれど,棚の上段はほこりが積もると目立ちそうだな,拭き掃除が大変だろうな,と余計な心配をする。そして上述の2冊に掲載されている「書店の写真」がとりわけ美しいのだ,といいうことをしみじみ実感して(何たるへそ曲がり),せっかく来たのだからとSusan Sontagのペーパーバックを1冊購入して店を出ました。
 さて,この日も冷たい雨が降ったりやんだり。気温も低くてつい,遠出するより市街で過ごすことを選択してしまいます。翌5日目も夜にロイヤルコンセルトヘボウのコンサートがあるので,昼間はアムステルダム市内で過ごすことにしました。

2013-11-15

2013年10月,アムステルダム(4),アムステルダム国立美術館

 4日目,10月31日は一日ゆっくりアムステルダム国立ミュージアムRyks Museumに時間をかけることにしました。今年4月,10年に及ぶ改修工事が無事終了してリオープンしたということで,今回の旅行の大きな目的の一つ。改修工事の難航した様子が映画になったりもしていましたが,無事開館したことは世界中の美術ファンにとって幸せな出来事と言えるのでは。この日もたくさんの来館者でにぎわっていました。
 改修工事で,自転車ユーザーの市民から現状保存が熱望されたという,グラウンドフロアの通り抜け。運河側からミュージアム広場へこのまま通り抜けることができます。自転車もたくさん行きかっていました。
 
 内部はとても明るく,開放的な印象です。右翼と左翼の動線がややわかりにくい。ただ,途方にくれる広大さではなく,最初に目的を絞り込んでおけば一日で廻れるかな,という感じ。それにしても歩く距離はきっと膨大なことになりそう。まずは元気なうちに,目玉のフェルメールとレンブラントをおさえようと2階の「名誉の間」と「夜警の間」に向かいます。
 
 おお,フェルメールが4点並んでいるコーナーには開館直後というのにすでにたくさんの人。「牛乳を注ぐ女」と,手紙に関する作品が2点,「恋文」と「手紙を読む女」。そして「デルフトの小径」。日本だったらこの4点を見るのに4日かかるだろうなあ,というのが一番の感想(おい…)。そしてしばらく通路の反対側の椅子に座って観察していると,「牛乳を注ぐ女」の前はちょっとした撮影会場みたいになってきた。どうしてそんなに携帯で作品を撮りたいのだろう。絵葉書を買えばいいじゃないか,と写真を撮る人たちを写真に撮る(ちょっとピンボケ)。 

  レンブラントの「夜警」の前もたくさんの人が押し合いへし合い。日本の美術館みたいに「立ちどまらないでください!」と怒られながら鑑賞するのもなんだけど,がやがやした広場みたいな場所で見るのもなんだな,というのが一番の感想(おいおい…)。そういう意味ではレンブラントは「名誉の間」にある「ユダヤの花嫁」や自画像をじっくり見ることができたのがよかった。

 同じ「名誉の間」で強く印象に残ったのがフランス・ハルス。昨年の夏,「真珠の耳飾りの少女」と一緒に来日したにかっと笑う少年像が強烈だったけれど,彼の描く「黒」の表情に魅了される。黒い衣服。黒い帽子。黒い眼。迷っていたけれど,ハーレムにあるフランス・ハルス美術館へも足を延ばしてみよう,とこのとき決めました。

  さて,この美術館でぜひ行きたかったのが図書閲覧室。雑誌などで「世界の美しい図書館」」みたいな特集があるとよく登場するので,期待度満点。ドアを開けるとそこは夢のような空間でした。1階の入り口付近には世界中の美術館で開催されたオランダ美術の展覧会図録も配架してあり,日本の美術館の図録もきちんと並んでいました。アジア美術のコーナーには,今夏に東京国立博物館で開催された「和様の書」展の図録もあり,世界規模のミュージアム・ネットワークに感心する。
 さて,この日は昼食で一端外へ出たついでに近くのゴッホ美術館にも立ち寄ったこともあって,夕方5時の閉館時までにすべての展示室を廻ることができませんでした。まだ日程は二日残っているので,どこかで残りを見ることにしよう。次稿はゴッホ美術館と,夜になって訪れたアメリカンブックセンターです。

2013-11-14

2013年10月,ブルージュ,メムリンク美術館/聖母教会などをめぐる

  三日目,10月30日はお隣の国ベルギーのブルージュへ日帰りバスツァーに参加してみました。気持ちのよい晴天です。オフシーズンで参加者は少ないかと思いきや,2階建てのバスは満員です。

  片道約3時間強の快適ドライブを経て,ブルージュ市街の南端にあたる「愛の湖公園」に到着。いきなりロマンチック度全開です。ベギン会修道院の敷地を抜けて街の中心部マルクト広場に向かい,そこから約4時間の自由行動。やはり少なくとも1泊はしたい規模の街でした。今も修道女が暮らすベギン会修道院。

  聖母教会は残念ながら内部改装中で,ミケランジェロの聖母子像とカラバッジョは12月まで見ることができないとのこと。うーん,残念。かわりに絵葉書を求めて,次はメムリンク美術館へ。街なかには観光客を乗せた馬車も行きかいます。
  メムリンク美術館は12世紀に造られた病院の建物の一部を利用していて,メムリンクの主要な作品ばかりではなく,当時の医療用具の展示もあり,かなり「イメージしていたブルージュ」の雰囲気を味わえる場所でした。

 というのも,出発前に知人に勧められて読んだのが「死都ブルージュ」(ローデンバック著,岩波文庫)。一体どんな幻想的な街だろうと妄想たくましくでかけたわけですが,まるで夏のバカンスの一日のような晴天が広がり,世界中からの観光客が楽しげに闊歩する様に,あれれっと脱力状態。

 気をとりなおしてメムリンク美術館。「聖ウルスラの聖遺物箱」はベルギー7大秘宝の一つです。ローデンバックの小説でも緻密な描写があり,おお,これが,と息を呑んで見つめる。「殉教に対する天使のような理解!天才であると同時に敬虔な一人の画家が思い描く天国の幻想。」(p.124より引用)
    ところでクノップフの「みすてられた街」(1904)はこの美術館の前景だと思い込んでいて写真を撮ったものの,どうも違う。メムリンクの銅像がある「メムリンク広場」は別の場所でした。いずれにしても,写っていたのは絵のイメージとはかけはなれた陽気な空気でしょう。

 街の中はチョコレート屋が軒を連ねていて,どこもお土産を求める人たちでにぎわっています。古いカード類を売る店では迷いながら5枚ほど選んだものの,お会計は1.5ユーロ(200円くらい)。もっとたくさん買えばよかったなあ,と後悔。ブルージュにはちょっと未練が残ります。
  あっという間に集合時間です。美しい中世の街並みをジオラマモードで撮ってみました。おもちゃのお城みたいで面白い1枚に。
 
 蛇足ながら,街のイメージは別として,男やもめユーグが亡き妻を思い,そっくりな踊り子を求めて街を彷徨う「死都ブルージュ」には印象深いフレーズがいくつも登場します。「ユーグはふたたびこうした宵をいくたびか経験した…完全な忘却!そしてそのやりなおし!時は小石のない河床を傾斜をなして流れていく…人は生きながらにして,すでに永遠によって暮らしているように思われる。」(p.51)「ユーグはこう思っていた。類似というものは,なんという不可解な力を持っているのだろう!と。それは人間性の相矛盾する二つの要求,つまり慣習と新奇さに応えるものである。」(p.63)
 
 さて,夜にアムステルダムに戻ってきました。4日目はアムステルダム国立美術館をじっくり堪能します。

2013-11-11

2013年10月,アムステルダム(3),歴史の記憶

 美術館めぐりの途中,旅に出る直前にBSの紀行番組で見た場所へ立ち寄りました。運河沿いにはめ込まれたプレート。中央の数字は運河の向こう側の家の番地を表しています。そして両脇には,その家に住んでいてナチス占領下の迫害で命を落としたユダヤ人家族の名前とその時の年齢が刻まれています。
  3歳,6歳といった幼い命の記憶も刻まれていました。理不尽に奪われた尊い命にただ祈りを捧げたいと思い,プレートに向かって合掌する。祈りの形はそれぞれの仕方でよいだろう,と思いながら。

 さて,二日目の夜にロンドン在住の友人が合流してくれて,一安心。三日目・10月30日は現地のバスツァーに申し込んで,日帰りブルージュ観光にでかけることにしました。

2013-11-10

2013年10月,アムステルダム(2),レンブラントの家/エルミタージュ・アムステルダム/FOAM/新教会/市立近代美術館

 アムステルダム市内の美術館めぐりはレンブラントの家Museum Het Rembrandthuisから始めます。レンブラントが1639年(33歳)から,20年後に破産して人に売り渡すまで住んでいた場所ということ。内部は復元なので,舞台装置の中にいるような感覚がなきにしもあらず。むしろ,棟続きの新館で開催されていたエッチング展の方が迫力があって面白かった。ショップでは正確に復元した銅版を用いて新たに刷ったエッチングを40ユーロくらいで販売しています。まあ,結局は複製なのだから印刷でよいか,と気に入った作品のカードを何枚か求めて次へ向かうことにします。建物内部のデルフトタイルによる装飾。
 次は,ワーテルロー広場を抜けてエルミタージュ美術館アムステルダムHermitage Amsterdamへ。美術館は2009年オープンの新しいものですが,17世紀建築の元養護院だという宏大な建物がとても美しい。特別展は「ゴーギャン・ボナール・ドニ」展が開催中。ロシアのフランス文化への憧憬がよくわかる充実の展示。副タイトル(英語表示)はA Russian Taste for French Artとなっています。ルドンやファンタン=ラトゥールの小品も印象に残ります。館内には養護院の施設の復元展示もあり,17世紀オランダの台所。
  マヘレの跳ね橋を渡って,次に向かったのはカイゼル運河に面した写真美術館FOAM。とても楽しみにしていた美術館の一つ。タイミング悪く全面改装中で,建物外観は足場の鉄骨で囲まれてました。それなりにフォトジェニックではある,と入口で1枚。
  特集展示はLee FriedlanderのAmerica by Car。60・70年代の既視感のあるイメージばかりではなく,近年撮影の新しいイメージも多く,入口付近の手狭な印象とは異なる広い空間でスピード感溢れる展示です。かっこいいなあ。ほかにオランダの雑誌写真の展示Framed in Print:40 years Dutch Magazine Photographyも。この国はなんて外国の文化への許容度が大きいのだろう,とおもちゃ箱をひっくり返したような展示を見て思う。
 
 さて,カフェで固い固いパンのサンドイッチと格闘して次に向かったのはダム広場Damの新教会Nieuwekerk。4月の現国王即位式のニュース映像が記憶に新しいけれど,普段はイベントや展示会場として使われているとのこと。2014年2月まで「明」展が開催中です。大英博物館しかり,ヨーロッパでアジア文物の展示を見るのは大好き。明代の青花はどこで見てもいいわあ,とうっとりする。南京博物館の所蔵品が中心のようです。後期ゴシック様式の壮麗な教会にこんなスクリーンがどーんと2枚。
 
  だいぶ日も傾いてきたところで,ミュージアム広場Museumpleinの市立近代美術館Stedelijk Museum Amsterdamへ。ここにはDonald Evansの作品が所蔵されていますが,現在は展示はありません。図書室で画集や資料を見ることはできます。事前に余裕を持ってコンタクトを取れば所蔵作品の閲覧も可能なようです。

  特別展はマレーヴィチMalevich展が開催中。ロシア・アヴァンギャルドの全容をつかめる大がかりな展覧会です。ところでこの建物は10年がかりの改装工事を終えて2012年9月に再オープンしたそう。Mels Crouwel設計の建物は「巨大な白いバスタブ」と呼ばれています。青空が広がってきて,ガラスに映り込む様子がかっこいい。
  と,朝からオランダ絵画,フランス絵画,アメリカ写真,明代文物,ロシア・アヴァンギャルドと支離滅裂もここに極まれり,といった感じで廻りましたが,一日の最後はやはりオランダで締めることに。常設展示でモンドリアンをたくさん見てもうお腹いっぱい。ショップで画集などを数冊買い込んでトラムに乗り,市街へと戻りました。

2013-11-07

2013年10月,アムステルダム(1),まずはDonald Evans

 アムステルダムに到着したのは,欧州にすさまじい嵐が吹き荒れた日の午後遅い時間。スキポール空港の名前の由来は「船の地獄」というのだそう。幸い,飛行機の地獄にはならず,ほぼ定刻通りにスムーズにランディングしました。タクシーで市街のホテルに到着しても,窓の外は強風と驟雨。日暮れまで少し時間がありそうだったものの,この日は身体を休めることにします。
 
  二日目,10月29日の朝は早めに眼が覚める。雨混じりの曇り空。ほとんどの美術館は10時開館なので,まずは9時開店の古書店を目指すことに。ホテルからアムステルダム大学の構内を東に抜けると,Antiquariaat A. Kok & Zn.はすぐに見つかりました。店内の正面奥に文学や哲学書がずらりと並び,右手の壁面と中央の台をぐるりと取り巻くように,美術書・画集・建築関係などが充実しています。その台の上には植物・風景・室内などなど,モチーフごとに整理された古い版画類が並んでいて,手頃なお土産探しに楽しい。1890年頃と書かれた古物図版のようなリトグラフを1枚購入。
そして,いきなりThe World of Donald Evansの1980年版(Text by Willy Eisenhart, Uitgeverij Bert Bakker)を発見。アムスの古本屋をめぐってDonald Evansが見つかったらいいな,と思っていたのが初日の9時30分に見つかってしまいました。ちょっと速すぎないか。しかもびっくりするくらいの格安値です。
  防水紙で丁寧に梱包してくれた本とリトグラフを大切に抱えて,店からさらに東の方向へ,次はKrom Boomssloot 63番地を目指します。「クロムボームスロート」という耳慣れない響きのこの場所の5階の屋根裏部屋にドナルドは滞在していて,そしてその人生の時間は突然,断ち切られました。

  彼の作品というより,平出隆の著作「葉書でドナルド・エヴァンズに」の読者である私には,その場所に「巡礼」するのは畏れ多いのだけれど,鼻の奥がツンとするような感情に,むしろ戸惑う。画家にとってのもう一つの世界を固い扉の向こうに見た詩人の旅を,私は辿っている。その詩人の旅は,「書物」というもう一つの世界の出来事なのだから,私にとっては「二重に閉ざされた」もう一つの世界がここKrom Boomsslootにあるわけだ。運河に面した,ひっそりとした通り。
 さて,この後は怒涛の美術館・展覧会めぐり。思ったよりも街のスケール感が大きいので,トラム一日券を購入して路線図を握りしめてスタートです。

2013-11-04

2013年11月,オランダの旅,Haarlemのマーケット

 
  アムステルダム6泊7日の旅から戻りました。いくつもの美術館やアンティークショップや書店などをめぐり,日常とはまったく別の時間の流れを体験して,現実復帰には少し時間がかかりそう。とはいえ,明日からはまたいつもの生活に戻ります。いろんなものを見て,最高の音楽を聴いて,たくさんの本や古いものを買ってきました。ゆっくり整理しながらアップしていきます。マーケットにはこんなに色鮮やかな花が並んでいました。アムステルダムから電車で15分くらいのHaarlemの街にて。