2023-05-31

2023年5月,大阪吹田,国立民族学博物館「ラテンアメリカの民衆芸術」

 久しぶりの関西への旅。昨年はGWに大槻能楽堂や古書市に出かけましたが,今年は海外からの観光客も戻って大変な混雑ということだったので,少しずらして行ってきました。どうしても5月中にと思ったのは民博のこの展覧会がお目当てだったので。

 インパクト大のビジュアルに惹かれたのですが,この「ヤギのナワル」は常設展示のラテンアメリカコーナーに展示されているものなので,今までに何度か目にしてきたはず。常設展示は右も左もインパクトが大きいものばかりなので,印象に残ってなかったのかも。

 こうやって特別展示館にピックアップされると,夢にも出てきそうな面白さです。後ろ姿も撮ってみた。
 展示は古代文明の遺物から現代アートまで,メキシコからアルゼンチンまで。とにかく「ラテンアメリカ」の民衆芸術を網羅した展示はエキサイティングとしか言いようがなく,時空を超えた旅をした気分です。作品の国や年代を確かめながら,その向こうにコルタサルやオクタビオ・パス,ガルシア・マルケス…etc.の名前と小説を想い起して,立ち止まる。(白状するとガエル・ガルシア・ベルナルやロケ・サンタクルスのイケメン振り!も)

 死ぬまでに南米の旅なんて実現するだろうか,とそんなことを考えながら万博公園の美しいバラを楽しんだのでした。

2023-05-20

2023年5月,静岡熱海,MOA美術館・熱海座五月演能会

 一体何年ぶりだろう,という熱海を訪れました。20年くらい前に横浜美術館の写真ワークショップで撮影に出かけて以来のこと。それ以前にも一度訪れたMOA美術館は亡父との思い出もあり,ちょっと感傷的になります。

 ここの能舞台は前から興味があったので,五月の演能会のチケットがとれてとても嬉しい。能は半蔀(立花),狂言は真奪という番組です。実は久しぶりに福王和幸さんの舞台を拝見したかったのも熱海まで出かけた理由です!

 今回は池坊が立花に協力ということで,会場には麗しい和服姿があちこちに。配られた詞章を見ながら,あ,そうか「草木国土悉皆成仏道」ってここに出てくるんだった,とか久しぶりにお能を堪能しました。

 美術館の展示は「岩佐又兵衛 極彩色ワールド『浄瑠璃物語絵巻』」。まさにめくるめく美しさの絵巻を楽しんで,でもちょっと残念だったのは常設展示が少ないことと,写真を撮りまくる観客が多いこと。熱海観光の一環だとしても,絵巻をそんなにたくさん接写してどうするんだろう,という勢いで撮影に夢中の人がたくさん。何だかなあ。

 そして熱海と言えば杉本博司,ということなのでしょう。入口ドアもロビー壁も常設展示にも御大の作品がずらりです。で,ガラス越しに撮影した私の「熱海海景」(笑)。陽が射してたし,島も写ってますがなかなかよい感じに撮れた!

2023-05-02

読んだ本,「香港陥落」(松浦寿輝)

 「香港陥落」(松浦寿輝 講談社 2023)読了。久しぶりに松浦寿輝の小説を楽しんだ。目次には「香港陥落」と「香港陥落-Side B」と並ぶ。そしてSide Bの扉にはジェラール・ジュネットのこんな言葉が引用されている。「グレン・グールドは自分のレコードの1枚をある友人に送ったとき,B面は決して聴かないことをその友人に約束させたという」(p.104)

 「香港陥落」は1941年11月,12月,1946年の日付が,そして「香港陥落-Side B」
 には1941年11月,12月そして1961年の日付が並ぶ。日本人の谷尾悠介、英国人リーランド、香港に流れてきた中国人の黄の3人が気の置けない友人のようでありながら,互いの心の内を探り合うようなひりひりとした会話を繰り広げる。シェイクスピアの戯曲を平行世界として,それぞれの国の立場から「戦争」が,「統治と被統治」が語られていく。

 松浦寿輝の「半島」のベトナム料理のように,今作でも広東料理が魅力的に綴られる。匂い立つような鯉の丸揚げ。香港の裏路地の怪しげな料理屋の二階の卓に私は座っている。迷路のような廊下を進んで今夜はここに泊まるのだ。虚構へと足を踏み入れた瞬間,急いでページを閉じないと,私は現実に戻ってこれない。

 リーランド「今のこの収容所での生活も,世界各国の戦地で起きていることも,これ以上ないほど「シェイクスピア的」だと思っていたものだ。さしあたりこの戦争は終わったけれど,今後この世界に待ち受けている運命だって,善かれ悪しかれ「シェイクスピア的」なものとなるだろうさ。ともかくシェイクスピアのなかには何もかもがあるのだから。」に対する谷尾の独白「(略)あれやこれやを新たに発明し,獲得し,その獲得をいかに誇ったところで,人間は相変わらず人間のままだ。ときに機械と化したり動物へと退行したりしながら,しかし人間は結局人間でしかない。/そして人間は必ず死ぬ。「われらが不満の冬」の暗鬱を太陽のように輝かしいエドワード4世が吹き払っても,そのエドワード4世の王権はやがて弟のグロスター公のリチャードによって簒奪される。(略)」(pp.85-86)