2023-06-24

2023年6月,東京六本木・紀尾井町,「吹きガラス」展・雅楽の演奏会

 サントリー美術館で「吹きガラス 妙なるかたち,技の妙」展を見ました。サントリー美術館のガラスはこれまでに何度も見ているから,とそれほど期待しないで行ったら,息を呑むような作品の数々! 第1章の古代ローマの吹きガラスの二連瓶や四連瓶なんて,今まで見たことがあった? 大英博物館にはもちろんあったのだろうけど,そういうものとは気づいていなかったのでした。詳しい製法の解説パネルも参考にその美しさに感動した午後でした。

 実はあまり期待してなかったので,夕方からの紀尾井ホールでの予定に合わせてあまり時間を取っていなかったことを深く後悔(こんなのばっかり)。

 急いで四谷に向かって,初めての紀尾井ホールでは十二音会の雅楽演奏会におじゃましてきました。コロナで宮内庁楽部の雅楽演奏会の一般公募がなくなって,雅楽は本当に久しぶりでうれしい。しかも左方の演目が「打球楽」! 
 
 初めて見た雅楽の演目が「打球楽」で,馬上でスティック(毬打)を振り回すポロの舞と,管弦トランス(!)とでも言いたくなる激しい曲に,こちらもトランス状態になった演目なのです。この日は音響のよいホールでの演奏だったので,ますます頭蓋骨に響いてきました。平安の世にまさにスリップして大感激の一夜。(開演前の舞台↓)

読んだ本,「時々,慈父になる。」(島田雅彦)

 島田雅彦の最新刊「時々,慈父になる。」(集英社 2023)を読了。作家デビュー40周年なのだそうだ。デビュー当時はそれほど熱心な読者ではなかったけれど,デビュー作以来ずっと読み続けているわけで,読者歴も40周年と思うと何やら感慨深い。

 で,これは帯によると「毀誉褒貶を顧みない作風で絶望の時代を駆け抜けた作家による,自伝的父子小説」ということ。そう言われると,バブルの崩壊,湾岸戦争,震災,コロナ禍…と次々に世界の絶望を思いついてため息が出てくる。

 しかし,そういう時代を一人の作家の作品を追いかけて生きてきたんだ,と思うと心強い。一時期はファンの集まりみたいのにも顔を出したりしたけれど,当時の読者たちもみんな年を取ったのだろうな,と思ってしまう。

 今作は「君が異端だった頃」で免疫(?)が出来ていたせいか,作家の私生活に衝撃を受けることもほとんどなく,寧ろ過去の作品が懐かしくなって「自由死刑」などを読み返してしまった。息子のミロク君も立派になったんだ。「詩のボクシング」の時に奥様と一緒に最前列に座っていた美形の少年を思い出す。

 「心折れる日常から逃避できるドアを持つのは精神衛生上不可欠だが,小説は別の時空への「どこでもドア」になる。「もし,私が小説を書いていなかったら」という仮定法はあまり考えたくない。どうせ答えは「入院している」とか,「刑務所にいる」とか,「アルコール依存症になっている」とか,「墓の下にいる」のいずれかになる。/肉体をよその土地に運ぶトリップと,意識だけ別の時空に飛ばすスリップの二本立てを重ねて来られたのは小説家の役得だった。…」(p.182)

2023年4月~6月,東京・埼玉,展覧会の忘備録

 4月~6月にぐるっとパスを利用してでかけた展覧会で未記のものを忘備として。ほとんど会期終了しています。悪しからず。

 

 埼玉県立近代美術館で「戸谷成雄 彫刻」展を。有名な森シリーズはやはり圧巻だった。そして初めて見た「地霊」には足がすくむような想い。

 根岸の日本書道美術館では「王義之と蘭亭序」展。すばらしい展示だったのだけれど,受付の人の態度にがっかり。美しいものはよい気分で見たいものです。

 六本木の泉屋博古館東京では「安宅コレクション名品選101」展を。閉館中の大阪東洋陶磁美術館から名品がずらりと。近くの大倉集古館の「愛のヴィクトリアン・ジュエリー」展も見て,優雅な気分の午後を過ごす。
 目黒区美術館では「ベルギーと日本」展を。児島虎次郎がとても魅力的。ルネ・マグリットも面白い作品が展示されていて楽しい展覧会だった。帰りに古書店の弘南堂に立ち寄って,堀田善衛の「別離と邂逅の詩」を購入。そう言えば古書店をゆっくりのぞくの久しぶりだな,となる。

2023年5月,大阪・京都,大阪日本民藝館・高麗美術館・細見美術館・竜安寺

 諸事情により(!),すっかり更新できていませんでした。5月の関西への旅の忘備録として。民博の次に向かったのは大阪日本民藝館で開催中の「絞り染めの世界 安藤宏子のまなざし」展。いつも民博ですっかり力尽きて,民藝館へ行くのは初めて。絞り染めは大好きなのでうれしい。国内の逸品だけでなく,インドやアフリカ,ブータンの絞りの敷物などもまさにツボ。

 大阪から京都へ移動して,翌日は上賀茂社を参詣してから高麗美術館へ。大好きな高麗美術館の開館35周年ということで春は「満月白磁と花と」というこれぞ名品展という展覧会を堪能しました。華角の箪笥の美しさ。ソウルの博物館でもこれほどの美しさのものは見なかった気がします。

 京都へ行くたびに足を運んで,折々に見た名品たちが一堂に会している感じなんだけど,まだまだ夏も秋も記念展が続くよう。

 午後は細見美術館で「香道 志野流の道統」展を。優雅な香道具を楽しんで,でも一番印象深かったのは賀茂社競馬図屏風だったかも。何しろ上賀茂社に立ち寄った直後だったもので。

 いつもあれこれと詰め込んで疲労困憊してしまうので,今回は美術館はこれくらいにして,あとはゆっくりおいしいものを楽しむ旅にしてみました。イノダコーヒー本店のレモンタルト,京極かねよのきんし丼。。ああ,でもどうして京都国立近代美術館で「Re:スタートライン」展を見なかったんだろう。後悔しきり。

 3日目は久しぶりに竜安寺の石庭などを。戻ってきた観光客と修学旅行生がたくさん。自分も観光客の一人のくせに。竜安寺の近くにアンティークのアクセサリーパーツの店を見つけて機嫌もV字回復! 楽しい旅でした。