2015-04-25

2015年4月,東京上野,大英博物館展

 上野の東京都美術館で開催中の「100のモノが語る世界の歴史 大英博物館展」を見てきました。特別な会に参加させてもらいました。会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。最近,PENを持ち歩いてなくてコンデジで撮影した画像です。ピンボケ写真を見て溜息をつく。多少嵩張っても,やはりPENをバッグに入れておこう。おっと,脱線ですね。下の写真は2012年の12月にロンドンを訪れたときのもの。ロンドンの冬の空。
 
 大英博物館はとにかく大好きな博物館。ロンドン旅行の際には何度も足を運びました(何しろ入場無料なので)。また行きたいなあ,と思っていたところにこの展覧会。しかもウルのスタンダードがやってくるなんて,びっくり仰天!東京で見ることができるなんてうれしいけれど,この展覧会の期間中にロンドンを訪れた人はがっかりするんじゃないのか,なんて余計な心配をしたくなります。
ウルのスタンダード
紀元前2500年頃,イラク,大英博物館蔵
 丁寧な解説パネルがあるのですが,私の場合,そもそも出土した「ウルの王墓」とは何ぞや,というところは「パレオマニア」(池澤夏樹著,集英社文庫 2008)で興味を持ち,さらに詳しい知識は「シュメル―人類最古の文明」(小林登志子著,中公新書 2005)がとても参考になりました。
 
 
 「シュメル―人類最古の文明」の第4章「シュメル合戦絵巻」には「ウルのスタンダード」についての詳しい解説があります。この不思議な「モノ」に詰まった膨大な情報から,現代に生きる私たちが何を「知る」べきなのか。はるか時空を超えて東京にやってきた,敵から自国民を守り,豊穣へと導くウルの王の姿が刻まれたこの美しい遺物が語る声にじっと耳を傾けてみる。
 
 100点のモノはどれも魅力的で,時代を追って8章で組み立てられた展示はとてもわかりやすく楽しい展覧会です。この展覧会の企画は英国BBCと大英博物館が共同制作したラジオ番組を書籍化した「100のモノが語る世界の歴史(全3巻)」(ニール・マクレガー著,筑摩書房)が出発点になっているそうで,是非,読んでみよう。
 
 ところで,モノへの想い入れというのはあくまで個人的な記憶に負うところが大きいもの。ここに写真を残しておきたいのは,2010年に大英博物館を訪れた際に企画展が開催されていて思い入れのあるイフェの頭像と,昨年訪れたインド旅行で俄然興味をひかれるようになったガンダーラ仏。どちらも端正な表情が美しい。時空を超えた「美」にうっとりします。

イフェの頭像
1300-1400年代初期,ナイジェリア,大英博物館蔵
 
ガンダーラの仏像
100-300年,パキスタン,大英博物館蔵 
展覧会は6月28日まで開催されています。http://www.tobikan.jp/exhibition/h27_history100.html

2015-04-13

2015年4月,東京中目黒,目黒川とカウブックスで買った本

 東京のお花見の名所の目黒川沿い。3月最終週の人出はいかばかりだっただろうか,というその場所へ,ほとぼりが醒めるのを待つようにして出かけてきました。これ以上のへそ曲がりが存在するだろうか。別に行かなくてもいいじゃん,と思いながら,代官山ツタヤへ出かけたついでに中目黒で下車。

 すっかり葉桜かと思いきや,枝に残る花びらや川面を漂う花びらが儚く美しい。しばし歩を止めて,今年も桜の季節があっという間にやってきてあっという間に過ぎ去っていったのを実感する。
  さて,中目黒下車のお目当ては古書店のカウブックス。まだお花見の名残の週末ということで,店内にはひっきりなしにお客さんが入ってくる。感じのよい若い店員さんが「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」とまるで小鳥の囀りのように繰り返すのが心地よい。

 この店は串田孫一がたくさんそろっていて,店主が山好きなんだろうか。「山の独奏曲」(山と渓谷社,1971)が画文集だとはまったく知らなかった。頁をめくって,そのモダンな装画の数々にすっかり心惹かれる。
  そして短い随筆のタイトルのどれもがみな,魅力的。「白骨」は藪の中で小動物の骨を見つける話だが,その藪の描写にはっとする。以下,引用します。

 「藪は,まだそれほど黄ばんではいなかったが,生命の疲れ,老いの息,しめっぽい匂いがあった。つまりそれは秋を予告し,秋の意味を思い出させるものだった。(略)どうもあまり好ましいものではない。それは,つい数日前までは盛んな命に自ら酔ってもいたものが,まだそれとは気付かないうちに衰えを見せ出している感じでもあった。もっともそれに気がついたところで,自ら求め,季節に先がけて枯れてしまうわけにも行かず,それを考えると,あわれにも思うのだった。」(p.170より)

2015年3月,横浜日本大通り,「古代エジプト ファラオと民の歴史」展

 4月第1週まで開催されていた「古代エジプト ファラオと民の歴史」展を横浜ユーラシア文化館に見に行きました。ここは小規模な建物ながら,いつ行っても密度の濃い展示が楽しめます。このエジプト展も歴史の表舞台に立つファラオの姿ばかりでなく,彼らを支えた「民」の存在にスポットを当てた面白い展覧会でした。
  「民の生活に密着した資料」と簡単に言うけれど,気の遠くなるような時間を過ごして今,眼の前にある物たちを見ていると,言葉を失います。

 それと,今回は古代エジプトから現代のエジプトへの歴史もたどる趣向が新鮮でした。キリスト教やイスラム教時代のさまざまな資料がわかりやすく展示され,ラスター彩陶器やコプトの織物など,今まで点でとらえていた時間が線と面でつながったように思えます。

 
  私の書棚のエジプトあれこれ。「ツタンカーメン」(大城道則著,中公新書 2013)と,パピルス画を著者の先生より拝領しました。パピルス画はシンプルなフレームに入れて飾りたい。
  神保町のかげろう文庫の店頭で発掘(?)したのは大英博物館が1914年に発行したWall Decorations of Egyptian Tombs。プリントと活字の配置が絶妙で,眺めているとワクワクします。造本に傷みがあるので,思い切って頁を切り離してフレームに入れてしまおうかと思案中。

2015-04-05

2015年3月,東京初台,スイスデザイン展

  オペラシティアートギャラリーで先週まで開催されていたスイスデザイン展を見てきました。最終日前日の土曜日の夕方,会場はおしゃれな雰囲気の若い人たちでいっぱい。
  入口付近には日本の型紙を使ったインスタレーション。ルツェルン応用化学芸術大学による型紙インスタレーションプロジェクトとかで,日本の「用の美」が,その用途を離れてオブジェになっているのを見るとちょっと複雑な感覚です。

 展示室内は,そうだこれはスイスのものだった,という製品が次々に現れてとても楽しい。スォッチもバリーもフライターグもネスレも。そして展示の最後はやはり真打はル・コルビュジェでしょう,という感じでかなりのスペースが割かれていました。
 
 ところでコルビュジェといえば集文社から出ている日本語版の「小さな家Une Petite Maison」が大好き。小さな判型だけれども,そこから広がる夢のような空間をまさに掌中で楽しめる一冊です。

 久しぶりにページを繰ろうと思って家に帰り,例によって(?)書棚を探索したけれども見つからない。ふと,そういえば旧友の一人に差し上げたのだったと思い出す。その時の,この本を贈り物として選んだ心持ちみたいなものを思い出してちょっとセンチメンタルな気分を味わいながら,さてネスカフェで一服。