2021-11-30

2021年11月,東北(1),青森・盛岡へ

 



 世の中が落ち着いているうちにと思い,北へ向かいました。JR東日本のお得なパスを利用して,東北新幹線で青森へ。初めての青森・岩手の旅はとても強烈な体験でした。旅の記録をゆっくりアップしていきます。これは3日目,雪が止んだ一瞬に朝の海岸で。これが外ヶ浜なんだ。

2021-11-21

2021年11月,東京上野毛・駒場,「アジアのうつわわーるど」・「棟方志功と東北の民藝」

 まさに眼福という展覧会を2つ。五島美術館で「アジアのうつわわーるど」展を見ました。これは休館中の町田市立博物館所蔵の陶磁・ガラスの名品を集めたもの。町田市立博物館へはベトナム陶磁や鼻煙壺のすばらしいコレクション展を見にでかけたことがあります。魅力のつまった所蔵品をぎゅっと集めた展覧会,大充実の展示でした。やっぱりベトナムと第2展示室の鼻煙壺がよかったな。まあ,それは私の好みだからというわけで。

 駒場の日本民藝館は改修後の大展示室をまだ見ていなかったので,それほど棟方志功には惹かれたわけではないけれども足を運んでみました。そしたら! 棟方志功がよかったんだ。こんなに魅力的だったっけ?と思うほどに。

 「東北経鬼門譜」はなかなか展示の機会がないという大作。これだけ写真撮影可でした。まさに圧巻です。会場で配布されていた説明には「鬼門の地である貧寒に苦しむ故郷・東北を憂い,仏の力を借りて幸あらしめたいと願い製作した」とあります。「鎮魂の祈りと再生への願い」ともあり,その迫力に圧倒される思い。

 そしてもう1つ,「善知鳥版画巻」の展示に感動。惹かれてやまない能曲「善知鳥」の背景についてはいろいろ読んできたつもりなのだけど,この版画巻の存在は知らなかったのです。6冊が展示されています。脳内に能の場面が次々と甦る!

 思わずショップで全冊が掲載されている「棟方志功 板画の世界」(日本民藝館)を購入。1枚でよいから手に入れて部屋に置きたくなってきた。

 で,まさか棟方志功の真作が簡単に手に入るわけはないので,複製画のカレンダー(1979年)を日本の古本屋で見つけてポチリ。すぐに届きました。よくできてます。まずはどの1枚を額装しようか思案しているところです。顛末についてはまたいずれ。

 民藝館の前庭で。枯れた蓮水鉢の向こうにプードルがちょこんと飼い主を待ってます。かわいすぎる。

2021-11-12

読んだ本,「やし酒飲み」(エイモス・チュツオーラ)

 「やし酒飲み」(エイモス・チュツオーラ 土屋哲訳 岩波文庫 2012)を読了。池澤夏樹編集の世界文学全集に所収されているので,以前から気になっていたアフリカ文学。

 「死んだ自分専属のやし酒造りの名人を呼び戻すため「死者の町」へと旅に出る」男の物語である。(表紙要約文)

 読み始めてすぐに,「である」と「ですます」が混合した不思議な文体に驚かされる。原文は英語とあるから,オリジナルの文章にそういう文法的な特色があって,それを日本語に置き換えるときに訳者が工夫した,ということなのだろう。この点,訳者のあとがきだけでなく多和田葉子の解説が付されていて,読書の大いなる助けとなってくれた。

 この不思議な小説は神話的世界であって,常識は通用しない,みたいな書評が多いようだ。たしかに,死者の町へと向かう途中で妻を娶り,「ジュジュ」を使ってあらゆる恐怖を乗り越えてついにやし酒造りを探し出す冒険譚には生と死の境界など存在しない。読者もまたその境界を行ったり来たりしながら,死者の町へ行ってそして帰ってくる。この本の頁をめくっている間,私はこの世に存在していなかったのではないだろうか。

 「死者の町」でやし酒造りと話すくだり。「わたしの町で死んでから彼は,死んだばかりのものはすぐに直接ここ(「死者の町」)に来れないので,まず死にたての者なら誰でも最初に行かなくてはならない,ある場所へ行った。そしてそこへ着いて2年間,完全な死者になるための訓練をうけ,その資格をとってからはじめてこの「死者の町」に来て,死者と一緒に住むようになったことを話してくれた。」(p.134)

2021-11-06

2021年11月,埼玉北浦和・大宮,「美男におわす」展と盆栽美術館

 すっかり箍が外れてしまったかのように出歩いてます。秋晴れの一日,埼玉へ。いずれも会期最終日だった埼玉県立近代美術館の「美男におわす」展と大宮盆栽美術館の「日暮し」の特別展示(1週間だけ!)を見てきました。

 「美男におわす」展は「美人画」という言い方はあるけど「美男画」と呼ばれることはなかった「美男のイメージ」の展覧会。いやあ,面白かった。浮世絵,日本画などから,雑誌の表紙やマンガ,現代作家の作品など,「美男」がずらりと並んでいます。

 ジェンダー的な問題提起の側面はともかく,観客それぞれが抱く理想のイメージがいつ,どんな風に描かれているのかを探すのはとても興味深い展示でした。ちなみに私は金子国義の魅力を再発見し,山口晃の筆力に嘆息し,船越桂の木像の虜になって帰ってきました。ヨーガン・アクセルバルの写真も面白かった。

 北浦和でゆっくりランチを頂いてから大宮盆栽美術館へ。年に1週間しか展示されないという五葉松の「日暮し」は日が暮れるまで眺めても見飽きないことから名づけられたのだそう。写真撮影は不可でした。この写真は庭園の「獅子の舞」。盆栽はそれぞれの銘も面白いです。まさに獅子が身をくねらせているよう。

古いもの,フェルメールで買ったもの

  金沢では久しぶりにフェルメールを訪ねて楽しい時間を過ごしました。新竪町の店舗からちょっと路地を入ったところに移転した店舗は以前の何倍もの広さ。ぎっしり詰まっていたアンティークたちがのびのびと迎えてくれます。

 静かなところでお店をやりたくなったという店主の塩井さんとのおしゃべりを楽しんで,今回はこの2つを連れて帰りました。タバコを入れる箱は蓋の部分を持ち上げると,中の1本が蓋上部の溝に繰り出される仕組み。インセンスを入れるのに良いかと思いながら,実用とは関係なく眺めていたい佇まいです。

 もう1つは,カットの美しいタンブラー。高さは8.5㎝くらい。お酒は弱いのですが,昨年の北海道旅行で買ってきた余市のシングルモルトをうんと薄めて飲むのは至福のとき。旅先で手に入れたアンティークのグラスに余市の思い出を注ぐ。。我ながら素敵だ(笑)。やっと戻ってきたかに見えるこの日常が,再びの災禍に脅かされることなく続きますように。 

2021-11-05

2021年10月,神奈川川崎,ヨーヨー・マ&キャサリン・ストット デュオリサイタル

  この秋沖縄でヨーヨー・マの無伴奏バッハのコンサートがあると知って,行きたいなあ,でも沖縄は遠いよなあと嘆息していたところ,高松宮殿下記念世界文化賞受賞記念コンサートがミューザ川崎で開催緊急決定したとのニュース!

  ちょっとケチってしまったA席チケットは舞台の斜め後方でした(涙)。Sにしとけばよかった。開演前,ここにヨーヨー・マが現れるのだ,と思うとかなり興奮の舞台の様子。

 配布されたプログラムを見て,欣喜雀躍とはこのこと。予定されている12曲の最後の3曲がピアソラ! ヨーヨー・マのCDはたくさん持ってて,中でもマイ・ベストが何といっても「ヨーヨー・マ・プレイズ・ピアソラ」なのです。ピアソラ生誕100年を意識してなのか,リベル・タンゴ,ソレダード,ル・グラン・タンゴがラインアップされてます。

 万来の拍手とともににこやかに登場したその人は,どこにでもいそうな紳士然としてはいるけれど,そのオーラたるやどこか超然としていて,この世の人ではないみたい。音楽の神に愛された選ばれし存在が奏でるチェロの音色には,うっとりという言葉では全然足りない。ほとんど陶然と聞き入りました。

 件のピアソラもすばらしかった。昨年来ピアソラはいろいろ聞いてきたけれど,さすがにチェロとピアノだけの大人のピアソラは唯一無二のものでした。

 アンコールが終わると涙が出そうになりました。ずっとずっとこの場に留まってあの音色を聴いていたかったから。

2021年10月,能登・金沢(5),国立工芸館など

 能登から金沢へ。曇り空の一日は1年半ぶりの墓参を済ませてから市街へ。竹橋から移転した国立工芸館は移転開館1周年記念展の「《十二の鷹》と明治の工芸」展が開催中です。旧陸軍の建物を移転して再生した工芸館は,外観こそ面白いものの,中はすっかり今風の展示施設で,その割には動線が不自然でちょっと肩すかしをくらった気分。展示は「必死の工芸」というコピーが面白くて,さすがは工芸館の所蔵品という内容でしたが。
 石川県立美術館は安定の常設展示を楽しみました。前田育徳会尊經閣文庫分館の「中国憧憬-周文の《山水図》と唐物-」が素晴らしい。特集展示の日本画の松崎十朗は初めて見ました。写実という言葉で一括りにすることができない光や波の描写を前に,作家の内面に引き込まれていくような感覚を覚えます。

 もう1つ,金沢21世紀美術館。旅が解禁になったせいか,相変わらず観光客で大混雑です。長蛇の列のチケット売り場を通りすぎて,無料エリアでダグ・エイケンの映像作品を。ここで見るという必然性がよくわからないけど,無料だから文句は言いません(!)

 さて,最後は移転したアンティークフェルメールへ。新しい店舗にわくわく。入手したアンティークについては後ほど稿を改めて。

2021年10月,能登(4),奥能登芸術祭・屋内展示を中心に見る

  快晴の2日目。まずは旧蛸島駅のトビアス・レーベルガー「何か他にできる」を。これも芸術祭のイメージとしてよく見る作品。Something Else is Possibleというタイトルは何となく元気が出てきます。 

 このあと,楽しみにしていた石川直樹の写真展示を見て(撮影はできなかった),大満足。饒舌な立体作品の中にこういう展示があると,きりっとするというか。「地上に星座をつくる」の能登のページを再読しよう。

 旧のと鉄道の廃線(2005年)はそれほど昔のことではないのに,線路跡はまるで遺跡みたい。線路は撤去されるんだな。旧正院駅の大岩オスカール「植木鉢」。 

  そして,今回私にとってのハイライトは旧飯田駅の川口龍夫「小さい忘れもの美術館」でした。縁戚の家がこの近くにあって,幼少時の夏,鉄道に乗ってこの駅で降りたことが何度もあるのです。すっかり忘却の彼方だったその記憶が,駅舎の前で蘇ってきてただただびっくり。

 この美術館には「忘れられたもの」と「忘れたもの」,そして「忘れていたもの」が収蔵されています,という作者の言葉にじーんとなる。「『忘れていたもの』とは人生で必要としていたものですっかり忘れていたものたちです」。涙腺崩壊寸前。


 いくつか寄り道しながら外浦へ向かい,木浦ビレッジでは原広司の壮大な「Identification」を。キムスージャの「息づかい」は巨大は鏡板が設置されているだけなのに,ぽっかりと異次元が浮かんでいるような面白さ。

 スズシアターミュージアムを見てから塩田千春の「時を運ぶ船」を。さすがの安定感(?)。

 そして最後は四方謙一の「Gravity/この地を見つめる」で2日間の旅程はおしまい。狼煙方面はカットしてしまったけど,半分以上は制覇できて大満足。「最涯の芸術祭,美術の最先端」を堪能して一路金沢へ向かいました。
 

2021年10月,能登(3),奥能登芸術祭・屋外展示を見る

  日々に追われているうちに,もう芸術祭の会期も終了してしまいました。記憶に留めておくためにここに写真を残しておこう。意外(?)と広い能登の地を駆け足で回るのは結構厳しいので,2日間かけて回ります。

 初日は屋内展示は休館日だったので,内浦の海岸沿いの屋外展示を。どれも面白かった。特に印象に残ったのは旧鵜飼(うかい)駅ホームを使ったディラン・カクの作品。巨大な透明なサルが端末を覗き込んでいます。

 古い蔵を使った佐藤貢の「網の小屋」は不気味な雰囲気なのだけれど,周囲に広がるのどかな風景の中でむしろ奇妙に可笑しい。海岸沿いのこの場所に馴染んでいるようにも,シニカルな笑いを浮かべて屹立しているようにも見えてきます。
 そしてこれはこの芸術祭のアイコン的な作品なのかな,浅羽克己の「石の卓球台第3号」は「さいはてのキャバレー」のテラスに設置されています。美しい海を横目に見ながら,若い恋人たちが卓球に興じたり,自撮りの動画を撮影していたり。

 他にもいろいろ。53組が参加していて,パンフレットには「岬めぐり」「鉄道の消滅点」「地域共同体の結び付き」「忘れられた日本」「最涯が最先端」とカテゴリー分けされていて,なるほど後付けの理解にはわかりやすい。でも単純に,面白いかどうかという感覚を頼りにスタンプを集めながら回って,楽しかった!