2022-10-29

2022年10月,東京新宿・上野毛ほか,「柳宗悦の心と眼」「禅宗の嵐」ほか

  9月と10月にでかけた展覧会の忘備録。楽しかった時間はちゃんと記録に残しておかないと。まずは9月から10月初の2週間だけ駐日韓国大使館韓国文化院ギャラリーMIで開催されていた「柳宗悦の心と眼」展。

 肉筆原稿,スケッチブック,ノートなどの展示を通して「朝鮮とその藝術」刊行100周年を記念するというもの。資料に関連する筆筒や染付壺なども出品されていましたが,やはり柳宗悦の思考をたどる直筆資料には圧倒されました。立派なブックレットもいただけて大充実の展覧会。初めてでかけた韓国文化院は楽しかった!また韓国に行きたいなあ。

 上野毛の五島美術館では「禅宗の嵐」展。タイトルからしてありがたい。高僧の墨蹟や語録,禅画,古写経などの展示は迫力満点。蘭渓道隆墨蹟「風蘭」偈はチラシやポスターになっている二文字。前に立つと,ぐうの音も出ません。まさに嵐のごとく鎌倉時代の高僧の姿が目に浮かぶよう。
 渋谷の実践女子大学香雪記念資料館では「知られざる佐藤春夫の軌跡」展を。佐藤春夫の名前は,自分の若い日を思い出させます。というのは,理系だった父の書棚に佐藤春夫の詩集が1冊差し込まれていて(それが「田園の憂鬱」だったような記憶があるのだけれど,今回の展示で「殉情詩集」の装幀を見て,これだったかもしれない),不思議な違和感とともに眺めていたのです。父はこの詩人の何に惹かれていたのだろう。

 直筆の原稿だけでなく,知識としては知っていた谷崎潤一郎との妻をめぐるやり取りを生々しく伝える書簡類,そして芥川賞をください,と切々と訴える太宰治の書簡などの展示が大充実の展覧会。実践女子大の学祭に合わせてでかけ,図書館やカフェでも楽しい時間を過ごしました。
 同日,渋谷から銀座線で上野へ向かい,「東京ビエンナーレ2023 始まり展」のイベントの寛永寺ツァーに参加しました。実は寛永寺は初めて。石川亮岳執事の案内で寛永寺をめぐり,展示されている鈴木理策や日比野克彦らの作品を中村政人が解説してくれるというなかなか楽しい1時間でした。アートもよかったけど,普段は公開されていない徳川慶喜の謹慎の部屋を見せてもらえたのが面白かった!写真は西村雄輔の作品。

読んだ本,「チベットわが祖国」(ダライ・ラマ)「高原好日」(加藤周一)

 身辺事情(?)にいろいろあって,ほとんど更新をしていなかった。読書はほとんど進まなかったが,記録に残さないと何もかも(読んだことも)忘れてしまうので,簡単な忘備録として。

 「チベットわが祖国」(ダライ・ラマ著 木村肥佐生訳 中公文庫 1998)はダライ・ラマの自叙伝。転生者探しからダライ・ラマとして生きることになる序盤から,中国の侵略とインド巡礼の旅を経てラサを脱出し,インドへ亡命するその激動の日々がときに淡々と,そしてときに激情豊かに描かれる。決死の脱出のくだりには,これが現実の出来事なのかと改めて驚異の感情を抱く。

 加藤周一の「高原好日」(ちくま文庫 2009)には「20世紀の思い出から」という壮大な副タイトルがついている。夏の高原で紡がれたいわば交友録なのだけれど,62人の友人(中には一茶や佐久間象山,巴御前など「幽霊」との会話も含まれる。それぞれ相手の人格を分析しながら自分との関係を見つめることで,「加藤周一の思索」そのものが描かれているようだ。特に興味深かったのは辻邦生,辻佐保子,池田満寿夫,武満徹などなど。
 この2冊の文庫本は同じ古書店主から求めたもの。本を買うという行為とともに美しい時間を手渡されたようで,本を愛する人への感謝の気持ちでいっぱい。