2013-10-12

2013年10月,東京新宿,中村恩恵・首藤康之「シェイクスピア『ソネット』」

  新国立劇場中劇場にでかけて中村恩恵と首藤康之のダンス公演「Shakespeare: THE SONNETS」を見てきました。京王新線から国立劇場に直結する通路でポスターを見る。これは2011年の初演時のポスターと同じ写真を使っています。操上和美の撮影した二人の身体は,もはや神々しいまでに美しい。開演前からすっかりメロメロ状態です。
  公演プログラムの二人の言葉によれば,これは「人間の持つ暗闇に焦点を当て,その苦悩を乗り越えていく過程で,シェイクスピアのいう「真善美」を具現化したいという切実な希求に出会う作品」ということ。「真善美」は原詩105に「『美しく,優しく,真実の』がわが主題のすべて」である,という一節があります。(「ソネット集」高松雄一訳,岩波文庫,p.146)

 プログラムはそれぞれSONNETSの144, 127,  3番の一節を詩人(首藤康之)が語るところから始まる三場で構成されています。二人は一つの場面の中で詩人/ロメオ/美青年(首藤),美青年/ジュリエット/ダークレディ(中村)といったように変身(変容)しながら役を演じるのですが,その切り替えの印象が全編を通して実に鮮烈です。

 第二場,照明が美しいチェス盤を舞台に照らしだし,オセロ(首藤)とデズデモーナ(中村)が盤上で交り合わないダンスを踊る場面はあまりにもかっこいい。観ていて陶然としてきます。オセロとデズデモーナの「美しさと優しさと真実が決して共存しない愛の形」が,首藤康之と中村恩恵の身体/舞踊となってそこにある。それは観客にとっては真実そのものの体験です。

 そして第三場では首藤が詩人/美青年/男,中村が美青年/女を演じます。この場面ではいつしか詩人と美青年は一体化し,しかしそれは男のようでも女のようでもあり,舞台上の二人は両性具有の美を体現しているかのようです。

 約80分の舞台はあっという間でした。ほとんど呆然となって,暫く立ち上がれない。この日の観客席の多くの人が,静かな熱狂でこの祝祭への陶酔を表現していたと思います。
 

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