2017-09-17

読んだ本,「芝生の復習」(リチャード・ブローティガン 藤本和子訳)

 アメリカの新しい翻訳物は一時期夢中になって読んだけれど,アップダイクやレイモンド・カーヴァーとかP・オースターといったあたりがメインで,ビートニクの作家はほとんど手を出していない。ケルアックやギンズバーグも文学史的な知識が少々,というだけだ。
  読まず嫌いというわけではないけれど,なんとなく気が進まない,というジャンルではある。なぜかは自分でもよくわからない。きっと自分にはピンとこないだろうというカンみたいなものだ。今年の夏,アンティークフェルメールで店主の塩井さんからブローティガンを勧められたものの,ついつい後回しになっていたのはそんな理由から。

 まずは短編集をと思い,「芝生の復習」(新潮文庫)を手にとってみた。そして冒頭の表題作を読んで,ピンとどころかガツンとやられた感じ。「Revenge of the lawn」,その不思議な言葉の組み合わせの通りの出来事が淡々と語られる。丸裸の鵞鳥,何ガロンもの灯油をかけられて火を放たれた梨の木。乾いた詩に心がヒリヒリとする。

 コルタサルの短編のように不条理な出来事が綴られるわけではないのに,どこか不穏な空気をまとった日常の世界にぐいぐいと引き込まれていく。時折,「わたし」は誰なのか,「君」は誰なのか,自分が主人公の映像を夢の中で見ている感覚になる。そう,ブローティガンを読むのは,不思議な夢をいくつも見続ける夜のようだ。

 「径には見なれない奇妙な花が咲きみだれている。わたしは一歩一歩,峡谷のいくつもの曲がり角で姿を消して行くのだが,そこを過ぎると,ついには太平洋と,そのドラマチックな浜に到着する。もしイエスが生きていた時代にカメラがあったら,かくばかりの写真がとれただろうと思われるような海岸で,そこに着いたきみはいまやその写真の光景の一部になる。だから,実際にそこにいるのかどうかを確かめるためにわれとわが身を抓ってみなければならないこともある。」(「砂の城」p.231より引用) 

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