2021-06-29

読んだ本,「植物忌」(星野智幸)

 星野智幸の「植物忌」(朝日新聞出版社 2021)を読了。朝日新聞に掲載された書評がとても面白かったので読んでみた(それはそうか,という気もする)。星野智幸は随分前から気になってはいるのだけれど,何となく読まず嫌いで今まできてしまった。島田雅彦と近い頃があったようでもあるし,飯田橋文学会と近そうでそうでもなさそうで,私にとっては何か不可思議な気配をまとう作家という印象がある。

 「植物忌」は植物と人間の境界線が曖昧な世界のさらに先をいく(上記書評より),植物に変身した人間たちの物語。冒頭の「避暑する木」(書き下ろし)は不穏な展開だけれども,明るいユーモアが通底していて,あれ,楽しいじゃないの,と思いながら読む。

 しかし,「記憶する密林」,「スキン・プランツ」…と読み進めるうちにその不穏な世界に徐々に飲み込まれ,植物転換手術を受ける「ぜんまいどおし」に至っては,あまりに爽やかにグロテスクな世界を描き出す筆致にぞっとしてしまう。

 もう無理,と思いながら結局最後まで読み通してしまった。最後の「喋らん」を読みながら,私は我が偏愛する蘭の鉢植えたちを横目で確認しながら,「あなたたちはこんならんとは違うわよね」と話しかけてしまった。返事を待っていた。私の指の先は緑色になっていた。

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