2015-03-07

読んだ本,「暗黒寓話集」/「往生際の悪い奴」(島田雅彦)

 島田雅彦の新刊を2冊読了。新刊と言っても「暗黒寓話集」(文藝春秋)は2014年11月刊,「往生際の悪い奴」(日本経済新聞社)に至っては2014年8月刊だから,今まで発売と同時に読破していた島田ファンとしては申し訳ない気持ちになってしまう(誰に?)。
  「往生際の悪い奴」は最近の谷崎潤一郎路線(?)とでもいえばよいのか,小悪魔的な若い女性をめぐる男性たちの悲喜劇が描かれる長編小説で,一気に読み終えてそれでおしまい。自分とほぼ同年代の作家が「往生際の悪い」奴を同病相哀れむ,みたいな視線で描くのが読者である自分にも跳ね返ってきて,切なくなる。若い女性の心理にもまったく共感できない事実もまた,切ない。往生際が悪いんだな,私も。

 「暗黒寓話集」は文芸誌などに掲載された短編8編をまとめたもの。こちらも読み終えて感じたのはさほど暗黒でもないな,というもの。2冊とも島田ファンとしてはちょっと物足りない。収穫は「暗黒寓話集」の「名誉死民」の一節。以下引用します。(p.139-140より)

 ヨシキが読んでいた漫画以外の本はわずかに三冊。そのうちの一つが「聖書」であり,「老子」であり,「ギリシャ神話」だった。その三冊は父親が選んだ。彼はよくこんなようなことを息子にいっていたそうだ。―この世界には真によむべき本はそう多くない。全部で百冊くらいだ。無理してカントやマルクスを読めとはいわない。どうせ読めないから。でも,この三冊だけは読んでおけ。死なずに済むから。
 結局,ヨシキは三冊の本を読み切る前に死んでしまった。読めなかったから,死んだのか,読み切っても死ぬ運命だったのか,それとも,あまりに読書が辛くて死ぬことにしたのか,わからない。ただ一ついえるのは,死なない人なんていないということだ。人と神のあいだに生まれたヘラクレイトスも,神に選ばれたモーゼもイエスも,不老不死を目指した仙人たちもみんな死んだ。

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