2016-10-09

2016年10月,東京恵比寿,東京都写真美術館TOP MUSEUMのリニューアル・「杉本博司展」

 
  東京都写真美術館がリニューアルオープンして,「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展と「世界報道写真展 2016」の二つの展示をゆっくり見てきました。クローズしている間,恵比寿へはすっかり足が遠のいてしまっていたけれど,これでまたいつでも写美に行けると思うととてもうれしい。リニューアルして,呼称もTOP MUSEUMに変わったらしい。エントランスが劇的(!)に変わっていたけれど,駅側からのアプローチの壁面のキャパや植田正治のプリントはそのままでほっとします。
  「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展は2階と3階を使った大規模な展示。3階は〈今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない〉の展示です。この魅力的なタイトルの謎解きは2階の〈廃墟劇場〉の解説にあります。ルキノ・ヴィスコンティの「異邦人」の冒頭「今日,ママンが死んだ、もしかすると昨日かもしれない」から生まれたのだそう。
 
  〈今日世界は死んだ...〉は文明が終わる33のストーリーが,自身の写真や蒐集した古美術等で構成されたインスタレーションで展示されているもの。フロアがそれぞれ独立した33の小部屋で仕切られているので,一つ一つをじっくり読んで見ていくのには集中力が必要。途中から,「代筆者リスト」でストーリーを代筆した人名を確認しながら,お,と思ったパート以外はざっと流してしまった。
 
 平野啓一郎代筆の「人ゲノム解説者」のパートを面白く見ました。抽象的な現代美術に向かい合うときは,これは何だろうと考えるときに,「見ている私」を強烈に意識するわけだけど,こういう「具体的な仮想ストーリー」を見るときにはかなり混乱する。
 
 そこにあるものに対しての知識が後付の理屈になってしまって,作者の意図を直截に受け取ることが難しいからかもしれません。今回は代筆者への私的な思い入れも相まって,「杉本博司の作品」の価値を,正確に(正確さが求めれているのかどうかはさておき)楽しむことは私にはできなかった。
 
 2階の〈廃墟劇場〉は〈劇場〉シリーズの既視感にあふれ,〈仏の海〉も,以前六本木で見たなあ,という感慨が湧いてきます。安心して見ることができるというべきか。
 
 やっぱり写真を見るのは面白いなあ,という幼稚な感想が頭をよぎるのと同時に,写真美術館はなぜ杉本博司をリニューアル展に選んだのだろう,というこれまた素朴な疑問もぐるぐる頭の中にうずまいたのでした。

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