2021-03-28

読んだ本,「不滅」(ミラン・クンデラ)

  ずっと読みたいと思いながら積読になっていたクンデラの「不滅」(菅野昭正訳 集英社1992)をようやく読了。体調が悪く,かなり時間がかかってしまった。安静にしている時間はたっぷりあるのに,集中力がまったく続かないという状態は辛い。あらためて身体と精神ということについて考える期間だった。まだ完全復調ではないものの,新しい季節とともに光が射してきてほっとする。

  さて,「不滅」。クンデラの作品七番とされる長編小説で,舞台はチェコから離れてパリへ。「私(=クンデラ)」はプールサイドで見かけた女性の仕草に感激して彼女をアニェスと名付けて彼女の人生を創り始める。そしてアニェスとポール,ゲーテと恋人ベッティーナの二組の男と女の人生が時空を超えて響き合い,描かれるのである。そして「私」は作中に自在に顔を出す。。

 クンデラの技巧を存分に楽しみストーリーの抜群の面白さを堪能しながら,まるで箴言を読むように細部の描写を味わう。まさに読書の至福である。

 「憎しみというものの罠は,憎しみがわれわれをあまりにきっちりと敵に結びつけてしまうことである。」(p.36)

 「高速道路はそれ自体ではいかなる意味もない。それによって結び付けられる二つの点だけが,意味をもつにすぎない。一方,道は空間に捧げられた賛辞である。道をどこで区切っても,それぞれにおいて意味が備えられていて,われわれを停止へと誘う。」(p.337)

  「人生において耐えられないのは,存在することではなく,自分の自我であることなのだ。そのコンピューターを使って,《創造主》は膨大な数の自我とそれらの自我の人生を世界のなかに導きいれた。しかし,それらすべての人生のかたわらに,より基本的な,《創造主》が創造に取りかかるより前にすでに実存していた存在,《創造主》がそれにたいしていかなる影響も及ぼさなかったし,また及ぼしてもいない存在を,想像することができるのだ。(p.392)

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