2021-04-04

読んだ本,「旅する練習」(乗代雄介)

 

  芥川賞の候補だったということで,新聞の書評で気になった「旅する練習」(乗代雄介 講談社 2021)を読了。コロナ禍の中,中学入学を控えたサッカー少女の姪と小説家の叔父が利根川沿いを徒歩で鹿島を目指す物語。少女はサッカーの練習を,叔父は風景を文章で写生する練習をしながら旅をする。

 読み始めるとすぐにそもそもの設定が気になったり(小学校を卒業したばかりの年頃の少女が叔父さんと二人で旅をするだろうか),ライトノベルのような話し言葉が続く会話が気になったり,柳田國男や小島信夫などの著作からの引用の部分が多いのが気になったり(とても興味深いのだけれど)。

 コロナ禍の現代を舞台にしたおとぎ話のようなロードムービー小説なのかな,と読み進めていく。しかし,残りのページもほんのわずかというあたりから,不穏な空気が漂い始める。そして迎える結末。この最後の1ページのための物語=旅だったのか。

 不条理への抵抗としての記録という文学。真言宗の真言やジーコの自伝,トリの生態など,魅力的なモチーフもあり,この作家はまた読んでみよう。我孫子の鳥の博物館にもいつか行ってみよう。少女のリフティング姿を思い浮かべながら。

 「書き続けることで,かくされたものへの意識を絶やさない自分を,この世のささやかな光源として立たせておく。そのための忍耐と記憶―私はみどりさんの言っていたことが気になって,ジーコの自伝にその言葉をさがした。『人生には絶対に忘れてはならない二つの大切な言葉がある。それは忍耐と記憶という言葉だ。忍耐という言葉を忘れない記憶が必要だということさ』」(pp.130-131)

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