2013-04-10

2013年4月,東京市ヶ谷,エドゥアルド・メンドサの講演

 エドゥアルド・メンドサの講演を聴きに,初めてセルバンテス文化センターを訪れました。市ヶ谷と麹町のちょうど中間くらい。スペイン語の振興と教育,そしてスペイン及びスペイン語圏文化の普及のためにスペイン政府により設立されたもので,本部はマドリードにあり,東京支部は世界に70以上ある支部の中で最大規模なのだそう(同センターHPより)。

 定刻より早めに地下オーディトリアムへ。すでに席に着いている人たちが手にしているメンドサのスペイン語原書(!)ばかりが目に入る。開始時間が近づいてくると,スペイン語の陽気な挨拶があちらこちらで。私は席で同時通訳のレシーバーを握りしめる。ステージはシンプルで美しい設え。にこやかに登壇したメンドサは白い椅子に座りました。
 
 作家の仕事とは「本の存在を完成させること」と語り始めました。いかにも同時通訳の日本語なのだけれど,とてもしっくりきます。小説とは「語るべき物語」がそこにあるから書かれるのだとも。
 
 話題は彼の小説における「ユーモア」や「前向きな登場人物」,現代社会における「権力」などなど,早口の同時通訳についていくのに必死です。「都市」について,「あらゆる都市はフェノミナムであり,そこに住む人は「彼自身」と「市民としての彼」の2つの顔を持っている」と語ったのが印象的でした。
 
 最後に彼は,「小説を執筆中に他者の意見を聞くということはしない。完成するまでは自分だけの世界。パスワードでロックしたパソコンの中に閉じ込める」と表現したのですが,にこやかに手で弧を描き,何かを閉じ込める仕草をしたとき,本当にこの夜,セルバンテス文化センターの地下にこの小説家の世界そのものが存在したような気がしました。
 
 残念ながら,出版されている邦訳は「奇蹟の都市」のみです。「サボルタ事件の真相」や「名もなき探偵」シリーズなど,話題にのぼった作品の邦訳が出版されるとよいなあ,とか,今からスペイン語を勉強するのは無謀というものだよなあ,とか考えながら春の夜風を受けて麹町の駅へ向かいました。 


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