2013-04-09

読んだ本,「奇蹟の都市」(エドゥアルド・メンドサ)

 エドゥアルド・メンドサの「奇蹟の都市」(鼓直,篠沢真理,松下直弘訳,国書刊行会 1996)は,田舎からバルセロナに出てきた一人の少年オノフレの成長の物語。1887年と1929年の二つの万国博覧会に挟まれた,区切られた時間の中で少年の成長と都市の成長が描かれています。

 となると,あたかも明るい青春物語のように思えてしまうのですが,オノフレは下宿代を払うためにアナキストのグループの仕事を手伝うところから,やがて暗黒街の「顔」へとのし上がっていきます。

 二段組400ページ近くのボリュームで,すいすい読めるわけではないのですが,「歴史小説やピカレスク,暗黒小説や科学小説という多くのサブジャンルが投げ込まれていて,その混在と重合が読み手を眩惑し魅了するという,作者メンドサの狙いどおりの結果が生じている」(p.387訳者あとがきより)。
 物語の終盤,自分の財産を奪われたオノフレと弟ジュアンのやり取り。「(ジュアンはオノフレに,)一生あくせく働いてきて,それか,と言った。なあに,清掃夫や,とオノフレは答えた,物乞いをしたって,やっぱり仕事はきつかったと思う。ただ,みんなが権威を振りかざし,勝手に振る舞っている残酷な社会の本質が,多少分かってきた。若いころの率直なシニシズムが中年の臆病な悲観主義に変わったということだ。」

 この本はかなり前に読もうとして途中で放り出してしまったのだけれど,この4月に作者メンドサが来日すると知って読み通した次第。セルバンテス文化センターでメンドサの講演を聞くについては次稿で。

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