2013-09-27

読んだ本,「スコットランドの漱石」(多胡吉郎)

  知人から拝借した「スコットランドの漱石」(多胡吉郎著,文春新書)を読了。漱石はロンドン留学中,スコットランドにも足跡を残していたのか,とまずは驚きます。そしてその後の作家生活に与えた影響についての興味を著者と共有することになるのですが,丁寧な取材と親しみやすい語り口は一本のドキュメンタリー番組を見るようです。それもそのはず,著者の多胡氏は元NHKのディレクターだそう。
  ただ,漱石が滞在したピトロクリの屋敷での主人との対話をはじめ,著者の想像と現実の境界がやや曖昧で(テレビなら,現実のインタビューと回想シーンとの区別は鮮明に視聴者に伝わるところだけれど),「え,なになに?」となってしまう箇所にも幾度か遭遇(私だけだろうか…)。また,p81の「草枕」の英訳についての記述の中で,「不人情」をdetachmentと訳している,という記述は「非人情」でないと意味がおかしいのではないかと思っていたところ,amazonのレビューで同じことを指摘している人がいて,ちょっと安心。誤植だと思います。

 それはさておき,グレン・グールドが「草枕」の英訳を愛読していたという事実,メンデルスゾーンと漱石の関係,「シングルモルト」を初めて口にした日本人が漱石だった(かもしれない),などなど興味深い内容が満載で刺激的です。グールドについては,亡くなったときに枕元にあったのは聖書と「草枕」だったとか。

 著者は漱石と同じくらいグールドという人物にも魅かれているようで,厚手のオーバーを着込んで,スコットランドの深い森の中を「田園」を口ずさみながら歩いているグールドの姿を思い浮かべる箇所(P.75)などは,その映像が生き生きと頁から立ち上がるようで,思わず引き込まれます。「草枕」はもう随分前に読んだきり。グールドを聴きながら読み返してみることにしよう。年を重ねて,どんな風に読めるのか楽しみでもあります。
 

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