2013-11-23

2013年11月,ハーレム/アムステルダム(8),フランス・ハルス美術館/アムステルダム国立美術館ふたたび


 あっという間に6日目,11月2日は朝から雨があがり,アムステルダム駅から鉄道で一人ハーレムに向かいました。窓口でハーレム往復の切符を購入,急行電車に飛び乗る。アムステルダム駅から15分くらいで到着です。
 
 駅前からまっすぐ伸びる道を南下します。人が少ないわけではないのに,とても静か。自然と歩く速度もゆっくりしてしまう。10分くらいで到着したマルクト広場には,土曜日は市が立っています。色鮮やかな花,みずみずしい果物,そしてオランダの犬。服を販売するテントの片隅で。
 
  マルクト広場に面して立つバフォ教会は威風堂々,厳かな雰囲気です。「信仰」と「日々の暮らし」が密着した広場からさらに南下して,フランス・ハルス美術館を目指します。
 
 街の辻々に観光客に親切な道標が立ち,細い路地を見逃すことなく,美術館に到着しました。この通りはガイドブックにも書いてあった通り,本当にきれいな通りです。どこを切り取っても絵になります。

  フランス・ハルス美術館は今年,創立100周年を迎えるのだそう。元は養老院だった建物は想像していたよりもずっと大きい。中庭をぐるりと取り巻く展示室を順番に見ていきます。フランス・ハルスだけでなく,同時代にフランドルで活躍した画家の名品も数多く展示され,ブルージュで見たメムリンクや,ブリューゲルの作品なども。
 フランス・ハルスは,昨年上野で見たマウリッツハイス美術館展の「笑う少年」が強烈で,あまり良い印象ではなかったのですが,酒井忠康氏の「人間のいる絵との対話:ヨーロッパの画家たち」(有斐閣,1981)を読んでがらりと印象が変わりました。ハーレムにあるこの美術館のことも同書で初めて知りました。「老人救貧院の評議員たち」(本書表記による)に関する次のような記述は印象深いものです。

 「…不用意にことばにできない,なにかが,そこに存在する。いつのころか,ならいおぼえた人間の虚無の,どっしりとした豊かさといったものが,そこにはあるからだろう」(p.34) 
 
 平出隆氏のアムステルダムしかり,酒井忠康氏のハーレムしかり,書物が導いてくれる旅の時間は私にとって,「閉ざされたもう一つの世界」へ足を踏み入れることができる,この上なく稀有な時間です。
 
 このまま元の世界へ戻れなくなったら,という幻想小説のような展開を妄想しながら,マーケットで買ったおいしいレモン・ビスケットを頬張ってハーレム駅まで戻ります。途中,素敵なアンティークショップの店先でヴィンテージ・ダイヤに魂を奪われる。どこまでも俗物なのです。そしてお値段を見て諦める。どこまでも現実的なのです,私は。バイオリンの工房兼ショップの前で。
 さて,アムステルダムに戻ったのが午後2時を回ったころ。夕刻まで,アムステルダム国立美術館のまだ見ていない展示室を廻ろうと,トラムに乗ってミュージアム広場に一直線。地階で昨年のミュンヘン旅行で初めて知ったリーメンシュナイダーの彫刻をゆっくりと仰ぎ見ます。 

  さて,とうとうアムステルダム滞在も翌日午前中を残すのみ。後ろ髪ひかれまじ,と気になっていたデルフト焼の古皿の店に向かいます。

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