2014-10-05

読んだ本,「盤上の海,詩の宇宙」(羽生善治 吉増剛造)

 以前,NHKのアーカイブ放送で同名の番組を見て以来,是非活字で読んでみたかった本。詩関係の古書が多い渋谷の中村書店で偶然見つけて手に入れました。二人の対話は言葉は平明でも,立ちどまりながら読まないとなかなかついていけない。実際の対談が行われたのは1997年のこと。
 第二部の羽生氏が語る「漠然とした不安と狂気」には思わず惹きこまれる。「ほんとうに真剣に打ち込んでその道を究めようとかその道一筋でやっていこうっていう人っていうのは,一種の狂気の世界っていうか何かそういう線を超えないとその先が見えないということになるような気がします。」(p.126より)
 
 そして対話の先に吉増氏は「なぜ詩を書くのか,誰に向かって書くのか」と問われてこう答える。「(略)たとえばある芸人が,誰もお客さんがいないときに,誰も見てくれる人がいないときに,お堂かなにかに入っていって,ご本尊の前にろうそくでも一本立てて,その前で芸をして,誰かが見てくれるように自分を置くようなものです。その誰かを神という必要もないとも思うんです。」(p.135より)
 
 タイトルは羽生氏の「盤に向かって潜る」という言葉に因るもの。「将棋は奥深い書物を読むこと」などなど印象的なフレーズが溢れていて,雨の日曜日に読書の至福を味わいました。
 
 ところでこの本は一部と二部の間に二人のポートレートがそれぞれ十数枚,見開き約30ページを使って掲載されています。撮影は荒木経惟。ここでは写真家の狂気が垣間見られます。

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