2017-10-22

2017年10月,横浜桜木町,ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス

  びっくりするくらいグロテスクなこの作品,カルヴィーノの「蟹だらけの船」をここに引用した次の日に横浜美術館で遭遇したので,それこそびっくりしてしまった。アイ・ウェイウェイの「河の蟹」というインスタレーション作品。ヨコハマトリエンナーレの横浜美術館会場にて。
 
 こういう偶然の符合みたいなものは,あくまで主体が自分だからびっくりするのであって,アイ・ウェイウェイにも美術館の人にとっても,これはあくまで一つの作品だ。観客である私の私的な読書体験が,カルヴィーノを勝手に連想させただけのことである。でも,と思う。私にとってはアイ・ウェイウェイとカルヴィーノが分かちがたく結びついた瞬間なのであって,よくいう「現代アートの意味をそれぞれが解釈する」行為の面白さを身をもって確認した一日となった。
 
 トリエンナーレは過去数回でかけたけれど,今回が一番面白かった。まあ,上述のような特別な出来事は,それはそれ。充実した展示にすっかり気分があがる。フォトジェニックな作品も多かった。アン・サマットの「酋長シリーズ」はエスニックと思わせて工業製品などが編み込まれている。そしてそれぞれの作品に性別がある!パオラ・ピヴィのカラフルな熊は「芸術のために立ち上がらなければ」と呟いている!

  そして,この日を選んで出かけたのは,畠山直哉・平野啓一郎・小林憲正(宇宙生物学者)の三氏による公開対話「ヨコハマラウンド」を聴講するのが目的だった。「時間」や「複数性」というテーマのもとに,深く興味深い話を聞くことができた。

 畠山直哉氏の,言葉を選んで鋭く慎重に語る姿はとても印象深いものだった。「『僕たち』は『僕』の複数形ではない」,「忘却とは違う時間の流れ」,「『当事者性』を,通訳はpositionalityと訳した」など印象的な言葉も多く,時間をかけてメモを読み直している。蛇足ながら,半分葉が茂り,半分が立ち枯れたクルミの木の写真を示して,カルヴィーノの「まっぷたつの子爵」に触れたときには,おお,またカルヴィーノ。と軽く興奮。
  畠山直哉の陸前高田の写真は,トリエンナーレの会場全体をぴりりと引き締めている印象。この写真の日付は2014年8月15日。彼岸からの声に満ち満ちた気配に,思わず涙ぐむ。

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