2018-07-20

読んだ本,「絶望キャラメル」(島田雅彦)

 
  島田雅彦の新刊「絶望キャラメル」。装丁や巻頭の「ウォームアップコミック」には絶句してしまい,よほどスルーしようかと思ったのだが,雅彦ファンが新刊を読まずしてどうする,というわけで読了。「島田雅彦が贈る最高の青春小説」というキャッチフレーズだけど,これは「島田雅彦流の青春小説」だ。
 
 「絶望」が支配する地方都市の4人の若者たちの群像劇のはずだが,そこには「放念」という名前の住職がプロデューサーとして存在し,小説の最終盤では「絶望キャラメル」という小説が登場人物の一人,夢二の手掛けた小説のタイトルであることも明らかになる。
 
 夢二が進学した「H大学では文壇の最前線で踊り続けている小説家の指導を仰げそう」( p.223)って,これは島田雅彦本人のことじゃないか!というわけで,放念も4人の若者たちも常に作家の手のひらの上で踊っているんだな。読者の私は思わずにやにやして,また雅彦(呼び捨て…)の新作を首を長くして待つことになる。
 
 「自分が生まれる前の時代が輝いて見えるのは,おまえがそこにいなかったからだよ。その時代の悲しみや絶望を噛み締めずに済んだからだよ。どの時代に生まれても,人は絶望する。だから思う存分,絶望するがよい。希望は絶望を肥やしに育つのだから。そして,今よりもう少しましな未来を手に入れろ」(p.8)

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