2020-08-30

読んだ本,「星に仄めかされて」(多和田葉子)

「星に仄めかされて」(多和田葉子 2020, 講談社)を読了。三部作の第二部にあたる。第一部は「地球にちりばめられて」

 ヨーロッパ留学中に「母国の島国」が消滅してしまった女性であるHirukoが,自分と同じ母語を話す人を探して旅をする物語。第一部で出会った日本人Susanooが失語症に陥り,友人たちが彼を見舞うためにコペンハーゲンを訪れる。

 彼ら/彼女らは皆,不思議な境界をやすやすと越えて生きている。男性でもあり女性でもあるインド人のアカッシュ。言語学者のクヌートは「雪の練習生」で登場したホッキョクグマと同じ名前だ。

 「故郷喪失者」であるHirukoを思いやるアカッシュの言葉が胸にささる。「まあね。だからHirukoが可哀想なのさ。誰とも子供時代の話ができない。こんな駄菓子があったねとか,こんな玩具が流行ったね,とか,たわいもない話でもすごく落ち着くんだ。激しく消しゴムで擦られ続けている過去を上から書きなぞるんだ。どうせもう一生帰らないんだから故郷の話なんかする必要ない,と思うかもしれないけれどそうじゃない。帰れないからこそ子供時代の鮮やかなイメージが生きるのに必要なんじゃないかな。しかも一人じゃだめだ。一人で思い浮かべているのでは妄想になってしまう。時には誰かと共有する必要があるんだ。」(p.247)

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