2018-10-08

読んだ本,「エバ・ルーナのお話」(イザベル・アジェンデ)

  イザベル・アジェンデ「エバ・ルーナのお話」(国書刊行会 1995)を読了。「日本人の恋人」が面白かったので,読んでみた。全部で23扁の短編集である。とにかく「物語」の人だ。ガルシア・マルケスに似ているという書評をどこかで読んだことがある。

 最初と最後に「千夜一夜物語」からの引用があり,現代のシェヘラザードたるアジェンデの語り手としての自負が伝わってこようというもの。解説で木村栄一氏は,アジェンデは神話的祖形の鋳型を使って物語を創造しているのだと結論づけているが,その物語世界は幻想的でありながら現実的,陰惨でありながらユーモラスだ。殺人も復讐も替え玉も,世界のすべてが渾然一体となって読者を魅了する。

 どの短編もそれぞれの魅力があって忘れがたいが,「北への道」「無垢のマリーア」「終わりのない人生」「幻の宮殿」などなどがとりわけ心に残る。不治の病の老妻を手にかけて,自らも致死量の毒を入れた注射器を手にした老人はしかし,自分の血管に注射を打つことができなかった、そんな夫婦の愛の物語である「終わりのない人生」はこんな風に始まる。

 「お話にはいろいろな種類がある。話しているうちに生まれてくるものもあるが,だれかが言葉にして語る前は,とりとめのない感動,ふとした思いつき,あるイメージ,おぼろげな記憶といったものがやがてお話になる。ただ,どんなお話も言葉でできている点が共通している。中にはまるでリンゴのように最初から完全な形で生まれてくるものもあるが,(略)また,記憶の奥底に秘められているお話もある。そういうものは生命組織のようなもので,根を張り,触手を伸ばし,付着物や寄生植物をまとう。時間が経つとともに,それは悪夢の種になって行く。時々記憶から生まれてくる悪魔を祓うために,物語として話さなければならなくなる」(p.214)

 

0 件のコメント: