2018-05-04

2018年4月,東京千駄ヶ谷,「善知鳥」の公演

 連休中にあれこれと整理していて,4月に国立能楽堂で見た「善知鳥」もここに記録しておかないと。お能の演目の中で一番惹かれるのがこの「善知鳥(うとう)」なのです。美しく雅な演目をさておいて,なんでこんなに悲惨で救いのないお話に惹かれるのか。。。

 生業として鳥を殺し続けた漁師が,今は地獄に落ちて鳥たちに苛まれるという物語。漁師の亡霊が,立山で諸国を巡る僧侶に自分の実家に行って追善供養してくれるように頼む場面から始まります。

 この辺り,ご恵贈いただいた「畜生・餓鬼・地獄の中世仏教史」(生駒哲郎著 吉川弘文館)がとても参考になりました。漠然と見ていたものが一気に中世仏教の枠組みの中で輪郭がくっきりして,まさに目からウロコとはこのこと。

 やがて場面は漁師の家へ。親鳥が「ウトオー」と鳴くと,隠していた子が「ヤスカタ」と返事をしてしまい漁師は容易に捕まえることができた,と謡うのです。シテが鳥を撃ち殺す場面にいきなり地謡が「親は空にて地の涙を」と謡います。漁師は笠を取って血の涙から逃げ回る…という涙なしには見られない展開。成仏してめでたし,で終わるわけではなく,この苦しみから救ってくれ,と僧に頼んで亡霊は消えていきます。
 
 今回は久習会の公演でした。シテを荒木亮氏,ワキの旅僧は福王和幸さん。 

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