2018-05-12

読んだ本,「無知」(ミラン・クンデラ)

  久しぶりにクンデラを読みたくなって,積読の中から1冊「無知」(西永良成訳 集英社,2001)を読了。残念ながら,クンデラの他の作品に比べるとあまり刺激的ではなかった。何しろ,ストーリーとは別次元で読みにくいのだ。ページをめくるごとに,「彼」とか「彼女」が一体誰なんだ⁇と戸惑うばかり。
  訳者あとがきに,クンデラが原稿の余白に書いた表題の解説が引用されている。そこでやっと私はこの小説の「意味」を半分くらい理解できたような気がする。「〈無知〉は軽蔑的な意味(愚かしさ,教養の欠如)ではなく,ひとつの実存的カテゴリーとして考えられている。つまり,人間は何も知らない存在であり,無知こそが人間の根源的な状況であるということだ」(p.213より)

 とはいえ,クンデラが登場人物たちに語らせる言葉にはやはり,はっとさせられるものが多かった。「彼女は茫然としながら,破れた恋,彼女の人生のもっとも美しい部分がゆっくりと,永久に遠ざかってゆくのを眺めていた。彼女にとってはもう,この過去しか存在していなかった。彼女が姿を見せたいと願うのはその過去,話しかけ合図を送りたいと願うのはその過去なのだ。未来など彼女の関心を惹かなかった。彼女は永遠を欲していた。永遠,それはとまった時間,動かなくなった時間のことだ。未来は永遠を不可能にする。彼女は未来を消滅させることを欲した。」(p.114)

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