2018-09-01

2018年8月,京都(2)・東京日本橋,金剛能楽堂・送り火・「金剛宗家の能面と能装束」展


  奈良から京都へ戻り,送り火の前に金剛能楽堂へ向かいます。「大文字送り火能」を見るのは2度目。舞台の周りに蝋燭が灯る「蝋燭能」です。今回の演目は「船弁慶 白波の伝」。前半の静御前(シテ金剛龍謹)の静かな舞と,後半の平知盛(シテ金剛永謹)の怨霊のすさまじい戦いの場面が対照的です。なんと言ってもこの二つの場面をつなぐ役目の弁慶(ワキ)を,福王和幸さんが演じるので興奮もマックス状態というもの。
 
 今回は正面の前方の席だったので,知盛と弁慶の激しい絡みを間近に見ることが出来て,感激。ラストの怨霊が引く潮に流されて激しく消える(そう,消え方が激しい。)場面は思わず力が入りました。終演後は向いの京都御苑から大文字の火を眺め,思わず知盛の怨霊が浄土へと帰ってくれることを願ったりしてしまった。来年もまた来たいものだと願いつつ。
 
 さて,京都行きに先立って三井記念美術館に「金剛宗家の能面と能装束」展を見にでかけました。豊臣秀吉が愛蔵した小面「雪・月・花」のうち,宗家に伝わる「雪の小面」と美術館が所蔵する「花の小面」が半世紀ぶりに再会するという。
 
 対に並んだ二つの能面を前にして,能面の美しさを言葉にすることができるだろうか,と思ってしまいます。小林秀雄の顰に倣って,「美しい能面がある。能面の美しさというものはない」とでも言ってしまおうか。奥へ向かって年齢が増すように展示されている女面の間を,静かに静かに,解説を読みながら歩を進めていきました。解説は金剛永謹さんによるもの。
 
 和辻哲郎「能面の様式」から引用します。「(…)自然的な動きを殺すことが,かえって人間の自然を鋭く表現するゆえんであることは,能の演技がきわめて明白に実証しているところである。それは色彩と形似を殺した水墨画がかえって深く大自然の生を表現するのと等しい。芸術におけるこのような表現の仕方が最もよく理解せられていた時代に,ちょうど能面の傑作もまた創り出されたのであった。」(初出1963,岩波文庫1995より)

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