2019-05-06

2019年5月,東京恵比寿,「写真の起源 英国」展

  連休中は結局はほとんど家にいて,仕事をしたり雑事を片づけたり。あれこれ出かけようと考えていたけれども,混雑や疲労を思うと,まあ連休明けでいっか。となってしまった。どうしてもこれだけは,と5月6日まで東京都写真美術館で開催の「写真の起源 英国」展には足を運んだ。見逃さなくて本当によかった,という展覧会だった。
 
   「写真のルーツに迫る日本初の英国初期写真展」と銘打たれ,会場入り口では手荷物検査! 大英図書館やV&Aなどなど,所蔵者を見ているだけでもわくわくしてくる。綺羅星のごとくのあまたの写真の中で,どうしても見たかったいくつかを。
 
 まずはタルボットの「自然の鉛筆」のオリジナル。写真集そのものだけでなく,銀製ネガ原版と単塩紙プリントが並ぶ。フレームに布のカバーがカーテンのようにかけてあって,そうーっとめくって見る。
 
 アンナ・アトキンスのサイアノタイプ「ギンシダ、ジャマイカ」。おおお。と感激したものの,これは東京都写真美術館の所蔵だった。見たことあるやつだ。でもこの「青」にやられる。ミュージアムショップで写真集Sun Gardensの復刻版を発見。
 
 そして展覧会のイメージになっているカバの写真。これはファン・ドウ・モンテゾン伯爵の「リージェンツ・パーク動物園のカバ」(1852)だが,これを見たとき堀江敏幸の「おぱらばん」を思い出した。所収の短編「留守番電話の詩人」は,無類の河馬好きのフランス人作家ヴァレリー・ラルボーに影響を受けて,カバの絵葉書を探す話。中でも作家がロンドン在住時に気に入っていたのがロンドン動物園のカバで…と展開するストーリーはやがて,一人の老詩人へと行きつく。堀江敏幸らしい,美しい掌編である。
 
 リージェンツ・パークのカバはこの掌編とは関係はないわけだけれど,「訪れる者を否応なく内省に誘う彼らの容貌」(p.65より)と,それをのぞき込む観客たち(まさに内省の時を過ごしている?)の姿をじっと眺めてしまう。
 
 さて,もう1点,ロジャー・フェントンの「死の影の谷」(1855)のオリジナル(V&A所蔵)も以前どこかで見たことがある気がするが,改めておお,これが。という感激にひたる。以前,多摩美の社会人講座で写真史を受講した際に,詳しく解説してもらったことを思い出し,かなり昔のノートをひっくり返して探し出した。
 
 この作品はロジャー・フェントン自身がクリミア戦争に従軍した際に撮影したもの。オリエントという自分たちの外の場所で起こった戦争の記録であり,「死の影の谷」とは聖書の一節だという。そしてこの写真は英国のアートマガジンに掲載された「芸術的な戦争写真」なのだ,という指摘が強烈な印象だった。「写真=起こった出来事を自らのテキストで解釈する素材となった」とノートに走り書きしている。講師の話をどこまで理解できていたのか,1枚の写真を前にして過去の自分に向き合うことにもなった。 

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