2019-05-31

読んだ本,「光の指で触れよ」(池澤夏樹)

  池澤夏樹の「光の指で触れよ」(中公文庫 2011)を読了。2005~2006年に新聞に連載された小説である。文庫解説によると,新聞連載時には挿絵ではなく写真が挿入されていたらしい。文庫本にも著者による写真が数カット挿入されている。
  文庫本で630頁,一気に読み終える面白さだったけれど,幼い娘を連れたアユミの行動や心情は,いかにも男性作家の脳内で紡がれたもの,という気がしないでもない。トーマスとの愛のない行為の場面も,不可思議だった。私が世間の常識にとらわれているのだろうか。そこから自由になれ,とこの小説は言っているのだろうか。

 トーマスがアユミに言う。「欲しいと思うものがあった時,それが本当に欲しいのかどうか,よく考えるんだ。何かが欲しいという気持ちは言わば亡霊だよ。ぼくたちの前にはいろいろな亡霊が登場する。その一人ずつとじっくり話し合うと,たいていの亡霊は退場する。そして,本物だけがこちらの腕の中に飛び込んでくる。本当に必要という点を見極める力が強くなると,欲しいものを引き寄せる力に変わる。人の精神にはそういう機能が備わっているんだ」(p.386)

0 件のコメント: