2012-10-10

2012年10月,東京両国,川村清雄展

 両国の江戸東京博物館に出かけて「維新の洋画家 川村清雄展」を見てきました。初めて聞く名前ですが,チラシには見覚えのある天璋院篤姫や勝海舟の肖像画。「知られざる巨匠」とか「幻の洋画家」といった言葉に興味津々で両国へ向かいます。


 川村清雄(1852-1934)は,明治4年にイタリアに留学してヴェネツィア美術学校で優秀な成績を収めて帰国するものの,フランス美術の影響に染まりゆく日本の洋画壇と相容れず,画壇に背を向けます。その後は勝海舟や徳川家達などの庇護のもと,日本人独自の油絵を追及し続けた画家ということ。

 「海底に遺る日清勇士の髑髏」(1899以前)という1枚に強く心惹かれました。日清両国の兵士が現世の悲惨な戦闘のあと,海底では過去を忘れて相親しむという寓意を絵に込めよ,という注文に応えたその絵に浮かぶのは,一つにも見えるような二つの髑髏。背景は闇夜のごとき海底ですが,画中に勝海舟揮毫の色紙が浮かびます。

 髑髏のイメージ=メメント・モリという連想はやはり西洋美術の系譜だと思うのですが,古歌の色紙との組み合わせが幻想的でもあり,孤独に闘う日本人洋画家の矜持を示しているようにも思えて,心に迫ります。

 徳川歴代将軍の肖像画は,13代家定と14代家茂が,数年前の大河ドラマ「篤姫」でそれぞれを演じた俳優さんのイメージにぴったり合うなあ,と妙なところで感心,納得。ヴェネツィア留学時代に崇敬していたというティエポロの聖家族像や,川村家伝来の歴史資料などの展示もあり,もりだくさんの内容です。時間と空間をダイナミックに行き来して,帰路はうっかり逆方向の電車に飛び乗ってしまった。

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