2012-10-06

読んだ本,「悪い娘の悪戯」(マリオ・バルガス=リョサ)

  「悪い娘の悪戯」(八重樫克彦・八重樫由貴子訳 作品社 2012)を読みました。ペルーの作家Mario Vargas Llosaの2006年の小説の邦訳。主人公は,出会いから約40年にわたり「ニーニャ・マラ=悪い娘」に振り回される善良な男・リカルド。彼は,野心と欲望に身を捧げて壮絶な人生を送るニーニャ・マラを献身的に愛し続けます。何度裏切られても,唐突に彼のもとに帰ってくる彼女を受け入れ,そしてまた裏切られる。冷たく奔放なニーニャ・マラは稀代の悪女には違いないのですが,不思議な魅力があって,はらはらしながらも一気に読み終えました。


 この壮大で数奇なラブストーリーの舞台はリマ,パリ,ロンドン,マドリッド,そしてフランス地中海岸の街セートで幕を閉じます。途中,大切な通過点=分岐点として東京も舞台になります。それぞれの時代の世界情勢や,海外から見たペルーの国内情勢なども描かれていて,物語がうわつきません。

 2010年にノーベル文学賞を受賞したバルガス=リョサは2011年6月に来日し,東京でも2か所で講演を行いました。そのうち,東京大学で開催された「文学への情熱ともうひとつの現実の創造」というテーマの講演を聞くことができました。 

 彼は,文学が描く「もうひとつの現実」には私たちの願望が反映されていて,現実の世界に足りないものを教えてくれるのだ,そしてそこで批判的な精神を養うことができるのだ,ということを語りました(と思います)。堂々とした体躯で,情熱たっぷりに文学の力を話す作家の姿に感動。震災後に予定通りに来日してくれたということもあり,講演の最後は万雷の拍手でした。 

 この日,私が受け取ったスペイン語から日本語への同時通訳機の調子が悪く,たびたび入る雑音が気になって講演にあまり集中できず残念でした。奇しくもこの小説の主人公リカルドの生業はユネスコの同時通訳者。多言語を自在に操る同業の友人サロモン・トレダーノは「友よ,どうか存在感のない紳士という通訳本来の役割を忘れないでくれたまえ」(本書p172から引用)とリカルドに語りかけます。あの日,同時通訳の人はきっとすばらしい仕事をした紳士だったのだろうけれど,私の手元の機械が少々「悪い娘」だったようです。

 講演のあと,早速読んだ「緑の家」(木村栄一訳 岩波文庫 2010)は入れ子構造の上,幻想的なストーリー展開にかなり手こずってしまいました。しばらくリョサは敬遠していましたが,「チボの狂宴」「都会と犬ども」なども手にとってみよう。
 

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