2012-10-02

2012年9月,東京渋谷,「井筒」

 渋谷セルリアンタワー能楽堂で櫻間会例会「井筒」の公演を見てきました。この能楽堂はホテルの入る建物の地下にあります。宴会場フロアから降りて,モダンなアプローチを通って能楽堂へ。まさに異空間という感じです。 

 お能の公演は久しぶり。ほとんど予習もしないででかけましたが,親切な鑑賞のしおりや,開演前の解説のおかげで約2時間の舞台を楽しみました。
 

 しおりからあらすじを引用します。「大和初瀬・在原寺。旅の僧の前に若い女が現れて古塚に水を手向け,業平の旧跡であると教える。業平と井筒の女の恋物語を語り終えると,自分はその女の霊であると明かして井筒の陰に身を隠す。その夜更け,女の霊は再び現れて,業平の形見の衣に身を包み,秋庭の井筒の水に身を映して業平の姿を偲び偲んで,夜明けとともに消えていく。」
 
 物語終盤では舞台後見座での衣装替え(「物着」というのだそう)があって,若い娘が業平の装束を身につけて姿を変えます。優雅な所作で若い女が男に変わっていく様子を目で追うことができて楽しい。
 
 考えてみると,この舞台では,男の能役者が有常の娘という女を演じ,その女が業平の形見を着け業平になろうとする。そして女はその姿を水面に映して業平を偲ぶ。つまり,男の役者が女に扮して,その女の哀れを男の身体の動きで表現しているわけです。ちょっとややこしいけれど,これぞ夢幻の世界。
 
 シテを演じた櫻間右陣さんの優雅な舞いにうっとりするうちに舞台は終わり,附祝言の「千秋楽は民を撫で…」に送られるようにして能楽堂を後にしました。

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